第3話 違法金利はダメですわ

「お店が騒がしいと通報があったわ。貴方達……。何をしているの?」


「は、はい。このライフ商会には違法金利で金貸しをしている疑いがあります!」


「奥様! 証拠もあるんです!」


「これは公爵家に対する挑戦です!」


 ここで受付の女性が兵士達の言い分を否定する。


「いえ! この人たちは突然お店に来て、違法金利だなんだと騒ぎ立てたんです。」


「うーん……。」


 セリアが悩んでいるフリをすると……


「ここからは私がお話しましょう。」


「商会長!?」


 そう言って現れたのは、恰幅の良い中年男性。この人物が商会長のようだ。


「ここで話すのもなんですから、奥でお話を伺います。」


(1件目から簡単に大物が釣れましたわね。)


 セリアと兵士達は奥の部屋に通される。



「違法金利の証拠があるそうですが、兵士さん方は証拠を見せて頂けますかな?」


「「「……」」」


 3人の兵士は沈黙している。


 溜め息をつき、言葉を続ける商会長。


「証拠も無しに適当な事を言われては困りますな。」


「では、違法金利で金貸しはやっていないと?」


「勿論ですとも。」


 恐らくは家令が財務管理を一手に引き受けていた弊害。ベリオーテ家の人間は誰も知らない。そう思っているからこその強気の態度。


「商会長さん。証拠というのはこれですの?」


 セリアは取引の帳簿と証明書を出して見せた。


「っ!!」


「元々この件についてお話がしたかったんですわ。」


「あっ、そ、そうでしたか。これは金利の桁が間違えていますね。すぐに修正致します。」


 商会長は焦りながらも違法金利とは言わず、あくまで間違いだった、で通すつもりのようだ。


「修正しなくて良いんですのよ?」


 商会長は目を丸くする。


「証拠。消そうとしましたわね?」


「め、めっそうもない!」


「さて、私がしかるべき所にこれを持って行けば、ライフ商会はどうなってしまうのかしら……。」


 ライフ商会は現在、様々な分野へ事業展開しており、その殆どを軌道に乗せる事に成功している大商会だ。


 それが違法金利で一定期間の営業停止となれば、信じられない程の大損害を被るだろう。


 そんな商会のトップが苦悶の表情を浮かべている。


「……何をお望みですか?」


「簡単な事ですわ。そもそもお金を貸していなかった事にすれば良いのです。」


「金貨1500枚の借金を踏み倒すおつもりですか!?」


 一般市民の平均年収は金貨1枚。ベリオーテ家は、その1500倍に相当する金をライフ商会から借りているのだ。


「借金? 勘違いは良くありませんわ。そもそも借りていないじゃありませんか。」


 フフフッと優雅に笑うセリアに対し、商会長は諦めたように肩を落とし……


「そう……でしたね……。」


 と返事をするのが精一杯であった。


「念のため、ここで証文を焼いて下さいね? 後になって、借りていない物を貸したなんて言われても困りますから。」


(そうするしかない筈ですわ。営業停止に追い込まれてしまえば、金貨1500枚どころではない損失を叩き出すのですから。)


 そうしてベリオーテ家が持つ負債の一部は、あっけなく消滅した。



 セリアは次々と商会を回っていく。


 アイジー商会、オワコン商会、ワクテカ商会、ヒポクラテ商会。


 どれも名だたる大商会である。


 元家令が引退する際には、適正金利に修正する約束になっていたそうだ。


(お蔭で私もやりたい放題できましたわ!)


 これら4つの商会の借金を帳消しに、オワコン商会からは低迷気味の魔道具事業をそっくりそのまま奪い取ってしまった。


 現在ベリオーテ家の借金は、適正金利で借りている金貨800枚。クルライゼ家からの援助金の残りである金貨500枚と差し引きすれば、借金完済も目前である。


「今日のところは帰りましょう。」


 そう言ってセリアはベリオーテ公爵邸に帰宅する。



「旦那様。本日は商会の方々とお会いして、借金を減額してまいりました。」


「そうなのかい? それは助かるよ。」


「これが現在のベリオーテ家の借金ですわ。」


 ケイスは受けとった帳簿を確認すると、驚きの声をあげる。


「凄いじゃないか! しかし、一体どうやって……」


「単純な計算ミスでしたわ。元家令の方は算術が得意ではないようですね。」


「そうか……。俺は彼に仕事を任せ過ぎていたのかもしれないな。」


 寂し気に呟くケイスはハッとした。


「まさか、仕事のストレスでセリアを襲ったのか……?」


(旦那様は鬼畜な癖に変にお優しいですわね。でもこの流れは良くありません。)


「いえ、彼が変態だっただけかと。」


「え?」


「あの方は、お前のパンツを被らせろと何度も叫んでいました。」


「とんでもない奴だ。やはり二度とこの家の敷居は跨がせん!」


(お仕事も頑張った事ですし、そろそろ旦那様で遊ぼうかしら……。)


「そう言えば、愛する方のほうはよろしいんですの?」


「うん?」


「私は時々愛してさえ頂ければ、それで十分ですから……。」


 悲しそうに笑うセリアに、ケイスの心は打たれる。


「い、いや……なにもそんな言い方をせずとも。」


「契約結婚なのは理解しています……。」


 そう言って下を向き、肩を震わせる彼女を見て心が動かない男はそういないだろう。


 例に洩れず、ケイスも心変わりしはじめていた。


「あっ、今日は一緒にね……」

「こうして私が仕事を頑張りますので、愛する方とお会いしてきても大丈夫ですわ。」


 ようかと言いかけ、言葉を遮られてしまったケイス。


「そ、そうか。すまないね。」


「いえいえ。当然の事です。」


(お預けをくらった子犬みたい。でも、まだダメですわ。)


「今日は疲れてしまいましたので、早めに就寝します。それでは。」


「あ、あぁ。」


(旦那様のガッカリしたお顔。なんて素敵なんでしょうか!)

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