3章 1つ1つ
1、無人島の火
レッドドラゴンの寝床から10mほど離れた大な木の陰に隠れ、僕達は一息ついた。
まさか、僕の寝ていたところがレッドドラゴンの寝床だとは思いもしなかった。
よく今まで鉢合わせしなかったものだ。
「はぁ~はぁ~……ちょっと、なんてところに案内するのよ!」
アリサが僕を睨みつけて怒鳴ってきた。
知らなかったんだから仕方ないじゃないか。
「ド、ドラゴンの寝床だって知らなかったんだから仕方ないだろ! この島に来てから3日経つけど、ドラゴンの姿なんて1回も見なかったし……」
そんな大きなドラゴンを見ていたら、怯えてその辺の物影で隠れて過ごしていたよ。
「……え? 3日もいて、1回も? それ、間違いない?」
アリサが僕の言葉に何かひっかったようだ。
おかしな事を言っただろうか。
「う、うん……間違いないよ」
「ふ~む……それだと、もしかしたらこの周辺には、あの寝床の主がいないのかも」
「えっそうなの!?」
たった3日間、姿を見ていないだけなのに。
「言ったでしょ、レッドドラゴンは縄張り意識が強いって。この周辺が縄張りだとすれば、3日もこの島に姿を現さないのはおかしいでしょ?」
「あー……なるほど……」
そう言われると確かにそうだ。
自分の縄張りなんだから、毎日見て回っていそうだ。
なのに3日も見かけないのはおかしい。
「じゃあ、あの寝床の主はどこに……?」
「ん~……うちも専門じゃないから、はっきりとはわからないけど……例えば、何かしらの理由で今は遠出をしている、もうどこかの場所へと引っ越した、海を渡っている時に一時的に使っていた……そんなところかしら? けど、だからと言ってもう戻ってこないとも言い切れないわ。いつ戻ってくるかわからないから、あの場所へは近づかない方がいいわね」
「そうか……」
となると、火おこしやシェルターは別の所に作った方がいいよな。
あの場所は救助優先で見晴らしがいいって事で選んだから、次は作ってはいけない場所を最優先に考えないとな。えーと……。
・崖下
・古い木の下
・大きな木の実が実っている木の下
とどのつまり、落下物や倒物の可能性がある場所は避ける事だったな。
落下物や倒物でシェルターが壊れたり、怪我をしてしまう可能性があるからって言ってたっけ。
そして、水辺の近くも駄目。
水辺の近くだと水の確保は簡単。
でも、雨とかで水かさが上がれば水没したり、流される危険性がある。
あるサバイバル動画では拠点が水没してたものな……。
で、出来る限り平地に作る事も大事だ。
立地が悪いと体を十分に休められないからな。
その辺りを考えると……。
「今思いつく限りだと、あそこになるか……」
思い付いた場所は、アリサを見つけた砂浜付近の土がある所だ。
ただ、あそこも海風にさらされているからあまりいい場所とは言いにくいよな。
シェルターを作るのは理想的な場所見つけてからにして、今日は火おこしを中心に考えよう。
「えと、今から君が流れ着いた砂浜辺りまで戻ろうと思うんだけど……その前に、ドラゴンの寝床から道具を取ってこないといけないから、ちょっと待っててほし……」
「はあ!? うちの話を聞いていたの? あそこには近づかない様にって、言ったじゃない!」
「き、聞いていたよ。けど、必要な物なんだ……」
干してあった火おこしに使う木の棒、焚き火に使う木の枝とかは別に回収できなくてもいい。
海岸に戻るついでに、落ちている枝とかを拾うだけだしな。
でも、シェルター兼ベッドをここに捨てておくのは流石に勿体無い。
「さっと行って、さっと取って行くだけだからさ!」
「……はあ~……仕方ない、わかったわ。うちは、周辺を警戒しているから、早くね」
「わかった!」
僕は石の入った木箱を拾い上げ、中の石を全部出してからドラゴンの寝床へと向かい、干してあった木の棒、枝を入る限り木箱の中に詰め込んだ。
「……あ、鱗も拾っておいた方がいいか」
刃物代わりに出来るレッドドラゴンの鱗は何かと重宝する。
見える範囲で落ちていた4枚の鱗を拾い木箱へと入れた。
そして、シェルター兼ベッドを担ぎ上げてアリサの居るところまで戻った。
※
「よいしょっ……。ふぃ~……いつものなら、この位の量は簡単に持てたんだけど、弱体化が思ったよりきついわ……」
目的地の海岸に到着した早々、アリサは抱えていた水の入ったビンとたくさんの木の枝と枯葉を地面に置いてぼやいた。
海岸に向かう道中、木箱に入れた分の枝だけだと焚火の燃料が足りないと判断したアリサが、自主的に落ちている枝とかを拾ってくれていた。
ものすごく助かるけど、そんなに弱体化しているのならあまり力仕事は頼めないな。
「えと、2人いるからひもぎり式で火を起こそうと思うだけど、手伝ってくれる?」
ひもぎり式はゆみぎり式より比較的簡単に火をおこせるらしいけど……どうなんだろ。
「手伝うのはいいけど、ひもぎり式ってなに?」
「今から道具を作るから、ちょっと待ってて」
まずは木の棒を押さえる物だけど、砂浜で拾った木の板を使おう。
鱗を使って、木の板の真ん中辺りを木の棒がはまる様に窪みを掘る。
「へぇ~考えたね。ナイフ代わりに、ドラゴンの鱗を使うなんて」
感心している所申し訳ないんだけど、今はこれしか使えないんです。
「フッ! んー……こんな物かな? 次はこの太い木の枝の方にも窪みを掘って、窪みの横を被せる様にVの字の切れ込みを入れる」
こっちも木の棒がはまるくらいの大きさで、深さは2~3mmくらいでよかったかな。
窪みは使い捨てだから、5カ所くらい窪み掘ってっと……これでよし。
「で、木の棒の両端を少し削る」
この時、窪みと火きり棒の先がぴったり合う様にしないといけなかったっけ。
……こんな感じかな?
切り込みを入れた太い枝の下に、乾かしておいた樹皮と軽く揉んだ枯葉で合わせて作った火口を敷く。
木の棒に蔓を巻き付けて、垂直に立てて太い枝の窪みにセット。
そして、木の棒の上に窪みをつけた板をかぶせて……。
「この木の板を両手でしっかりと押さえてくれる?」
「わかったわ。このくらい?」
強めに押さえてはいる感じだけど、それでいいのかな。
いいや、どうせ1回目で火を起きるとは考えていないし。
「うん。じゃあ動かすね」
僕は太い枝を右足で踏んで固定して、蔓の端を両手にもった。
そして、ゆっくりと蔓を交互に引っ張って木の棒を回転させてみる。
ちょっと引っかかる感じがするけど……これでやってみるか。
「もっと早く動かすよ……ふぅー……うりゃあああああああああああ!!」
僕は引っ張る速度を上げた。
シャコシャコと音立てながら木の棒が高速で回転する。
「あっ! ちょっ! まずいっ!」
「ああああああ――おわっ!!」
木の棒が勢いよく外れてしまった。
これは失敗だな。
「あう、ごめん……」
「失敗は仕方ないよ、気にしないで」
けど、窪みが黒くなっているという事は焦げている証拠だ。
ならこのまま続ければ火がつく可能性は十分にあるぞ。
僕とアリサは交代しながら、木の棒を回す作業をする事4回。
焦げた匂いはするけど、火がつくところまではいけなかった。
窪みも後1カ所……これで駄目なら別のやり方にした方がいいかもしれないな。
「よし、行くよ!」
「うん!」
僕は今まで以上に全力で蔓を引っ張った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「んんんんんん!」
アリサも必死に板を押さえつけている。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」
今まで以上に煙が上がっている。
頼む……! ついてくれ!
「おおおおおおおおおおおおおおお!! ……はあー……はあー……はあー……はあー……どうだ!?」
木の棒を外して窪みを見るが、火種は見えない。
やっぱり駄目なのか……そう諦めかけた瞬間。
「……ん? あっ! 小さい火が見えるよ!」
「えっ!」
アリサの声にもう一度窪みを見ると、赤く光る物があった。
「――っ!」
僕は急いで火種を火口び上に落として包み込み、優しく息を吹きかけた。
「ふぅーふぅーふぅー」
すると煙の量がどんどんと増えて行き、小さかった火種の火が――。
「――あっつ!」
火口を赤く燃え広がせた!
「わああああああああ! やった! やった! 火がついたよ!!」
何も無い無人島に火がついた瞬間だった。
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