4、衝撃の事実
文句を言いたい……言いたいけど、どうやればあの女神に僕の声が届くのだろうか。
大声で叫んでみるか? いや、そんな事で声が届くわけないか。
じゃあ……念じるとか? それもどうかと思うがやってはみるか。
……おーい! 女神さま聞こえますか? 聞こえていたら何か反応して下さい、どうぞ?
――くぅ~
「はうっ!」
アリサがお腹を押さえた。
どうやら、僕の思いに反応したのはアリサのお腹の虫のようだ。
「あはは……昨日から、まともに食べてなくて……」
モンスターも腹は減るか。
まあそりゃそうか、モンスターと言っても生物だしな。
僕もお腹が空いて来たし、奇跡の実でも採りいこう。
「ん~……何か食べ物はないかな~……」
アリサが砂浜の上をキョロキョロしながら歩き出した。
そうか、船に積んであった食べ物も流れ着いているかもしれないぞ。
よし、さっそく僕も探してみ……。
「お、ハマラシュウが生えているじゃない」
アリサが、タンポポみたいな葉っぱをした草の手前で立ち止まった。
「……その草って食べられるの?」
僕にはただの雑草にしか見えないんだけど。
「いやいや、なに言って……あ~、フジシロリョータの世界にはないのか。これはね、ハマラシュウって言って、海岸の砂地に生えている植物なの。根っこ部分を、食べるんだよ」
そう言って、アリサはハマラシュウの周りを掘り始めた。
海岸の砂地に生えていて根っこを食べる……ハマダイコンみたいなものかな。
「植物に詳しいの?」
「うちは旅をしているからね。食べられる物とか知識は、頭に入れておかないと」
確かにその通りだ、旅をするなら必要な知識だ。
僕もサバイバル動画とかで得た知識しかないけど、あるとなしとじゃだいぶ変わっていただろう。
まぁ……この異世界では見た事ないものばかりで無知と変わらん気もするけど。
「……よし、取れた」
アリサが掘り出したのは、大根とは程遠い根っこが太目で緑色をした植物だった。
ぱっと見はワサビみたいだな。
「それって生で食べれるの?」
すごく青臭そうだ。
「毒があるから、生はお勧めしないわ」
毒があるのかよ。
やっぱり知識が無いとこわい。
「じゃあどうやって食べるの……?」
「焼いたり煮たりして、火を通せば毒は無くなるわ。だから火をつけましょう」
火をつけましょうと言われても。
「僕は魔法なんてを使えないよ……?」
初日でめちゃくちゃ試したから間違いない。
僕は魔法を使えない。
「………………えっ! 嘘でしょ!? 魔法を使えないヒトなんているの!?」
そんな目を真ん丸にして驚かなくても。
ここにいるんだからしかたがないでしょ。
「あ~……その感じ、本当みたいね……そうか、異世界人って魔法が使えないのか。うちも、この枷のせいで魔法が使えない状態だし……じゃあ、落雷とかあの山が噴火しないと、火が手に入らないじゃないの! そんなの、待っていられないよ! どうしよう!」
アリサが慌てふためいている。
なるほど、この世界のヒトはみんな魔法が当たり前に使えるんだな。
だから魔法ありきの生活が成り立っているわけだ。
そのせいで、木を擦ったり火打ち石とかで人力で火をおこす事は思いつかないわけか。
「問題ないよ。魔法や自然以外にも火をおこせるから」
まぁ簡単にってわけじゃないがな。
ライターかマッチがほしい……。
「へっ? 魔法や自然以外で?」
ただ、今ここにあるもので火をおこすのは難しい。
木の板はあるけど、木の棒に適しているのがない。
山に置いてきた木の枝が乾いているといいな。
「え? え? どういう事? 意味が分からないよ?」
そんなに不思議かな。
僕にとっては魔法で火をつける方が意味不明で不思議なんだがな。
「後でちゃんと説明するから、ちょっと手伝って」
「え? あ……うん……よくわからないけど、わかった」
それはどっちなんだ……まぁいいや、今は目の前の事に集中しよう。
山に戻るついでに、持って行きたい物が多いしな。
まずは果実酒を箱の中から全部出して、空箱を入れ物にする。
次に、果実酒の中身を捨てて空きビンを手に入れる。
空きビンは水の保存が出来るから一番の収穫だな。
えーと、僕とアリサ専用に1本ずつ、予備は……とりあえず2本で合計4本。
残りの果実酒は海とか風に持って行かれない様に、茂みの奥に置いておいて……また取りに来るとしよう。
「はい、このビンの中身を捨ててくれないかな」
アリサに果実酒2本を手渡した。
「わかったわ……スンスン……この匂いは、リーゴ酒ね。あの人さらいの奴、こんな物も運んでたのか」
果実酒の中身の臭いを嗅ぎ、しかめ面をするアリサ。
そして、呆れたって感じの言い方。
「もしかして、この酒って違法な……」
「そう、リーゴ酒は密造酒よ」
「やっぱり」
ビンの形が歪なのは、そのせいか。
とはいえ、密造酒とわかってもこの島だとアルコールは貴重だから目を瞑っておくとしよう。
※
「ここが水の流れている場所だよ」
僕とアリサは昨日見つけた沢までやって来た。
ここに来た目的は2つ、水の確保と石を拾う事だ。
水はビンの中に入れ、石はかまどといった色んな用途に使える……石器は失敗したけどな。
にしても、予想通り沢の水量が多いな。
2倍……いや3倍くらいあるかな?
「……あのさ、ちょっと水浴びをしてもいいかな? 髪と羽が海水で、カピカピになっちゃって」
「あっうん、どう……ぞ!?」
アリサがいきなり着せていた服を脱ぎ始めた。
いくらモンスターと言っても、異性の前なんだからそんな突然な行動は止めて!
「ぼっぼぼぼぼぼ僕、上流で作業しているから! 終わったら呼んで! ご、ごゆっくり!!」
僕は慌ててアリサに背を向けて、全速力で上流へと走って行った。
「? なんであんなに、慌てて走って行ったんだろう? ……異世界人って、よくわからないわ」
その後、水をビンに入れ、石を箱に詰め込み、水浴びが終わったアリサと合流して山の拓けた場所まで向かっていた。
「ふぅー……ふぅー……ふぅー……」
これは思ったより箱を持った腕と足、腰が辛い。
この箱、一体何kあるんだろう?
往復が面倒だからと満杯に入れるんじゃなかった、半分くらいにするべきだった。
「ねぇ……やっぱり、うちも少し持とうか?」
そう言いながらも、中身の入ったビンを4本抱きかかえているアリサも辛そうだ。
弱体化の呪いで身体能力が落ちているからよけいにかもしれない。
「だい……じょうぶ……だから……」
そんな彼女に対して、鍛えている僕が弱音を吐けるわけがない。
もってくれよ……! 僕の腕、足、腰よ!
※
結構な時間をかけ、僕達はようやく山の拓けた場所まで登って来た。
「ふぅー……ふぅー……よいしょ……はあー……やっとついた…………えと、ここが……目的地……だよ」
何とか到着するまでに腕、足、腰はもってくれた。
「へぇ~、結構広い場所じゃないの……ん? これって……」
アリサが落ちていた赤い板に気付き拾い上げた。
そうだ、アリサならこの板の正体を知っているかもしれないな。
「あ、それってここに何枚か落ちていたんだけど、一体な……」
「今すぐ、ここから離れるわよ!!」
アリサが僕の傍まで走って来て、右手を握ってきた。
「うえっ! ちょっ!? な、なに!?」
突然、異性に手を握られて動揺する僕。
多分声も裏返っていたに違いない。
「ここは、レッドドラゴンの寝床よ!」
「……えっ? 今……なんて?」
すごく恐ろしい単語が出た気がするんだが……。
「だ~か~ら~! ここは、レッドドラゴンの寝床! この赤いのは、レッドドラゴンの鱗よ!」
「…………えええっ! ここ寝床だったの!? しかも鱗!?」
言われてみると、確かに鱗だ。
1枚の鱗のサイズが手のひらくらい、そしてこの拓かれた場所の広さ。
それらを考えるとレッドドラゴンの大きさって……一軒家くらいでかいじゃないか!
「そう! しかもレッドドラゴンは、ドラゴン種の中でもかなり狂暴で、縄張り意識が強いの! そんな奴の、寝床に侵入していたら……」
死あるのみ!
「いいいっいいいいいいいい今すぐ逃げよう!!」
僕達は脱兎のごとく、その場から逃げ出した。
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