3、異世界人と現地人

「ふ~ん……フジシロ、リョータ……ねぇ……」


 アリサと名乗ったハーピーがジロジロと僕を見て来る。

 やめて、そんな物珍しそうな目で僕の事を見ないで下さい!


「……言葉は通じる、でも変わった名前、変わった服……もしかして……ねぇ、あなたは別の世界の人間?」


「えっ!?」


 アリサの口から予想外の言葉が出て来て僕は驚きを隠せなかった。


「な、なんで僕が別の世界の人間ってわかったんですか?」


 まさか、この世界の人からそんな事を聞かれるなんて思いもしなかった。


「やっぱり、そうなんだ! うち、異世界人を見るのは初めてなの! へぇ~……ほぅ~……噂通り、こっちの人間族と姿形は全然変わらないね……かなり、筋肉質だけど……」


 アリサが目を輝かせながら近づいてきて、近距離で僕の体をあちこちを見始めた。

 だから見るのをやめてえええ。


「あっあの! 僕の質問に答えてくれないかな?」


 アリサとの距離をさっととり、話を進めるように促した。


「あっと、ごめんごめん、つい夢中になっちゃった。えと、どうして別の世界の人間ってわかったのか、だったよね。ん~と、数十年前から1カ月おきに1~2人ほどかな? この世界のどこかに言葉が通じなくて、変わった名前で、変わった格好をした人間族が突然現れる様になったの」


「……1カ月おきに1~2人?」


 流石にそれは多すぎでは?

 おいおい……あの女神、手あたり次第この世界に人を送っているのかよ。

 しかも、話を聞く限り転送先は完全にランダムみたいだし……あっ、だから僕はこんな無人島に送られたわけか! なんだよ、そのふざけた話は!


「そう。で、時がたてば、言葉も大体通じる様になってきて、何処から来たのかって聞くと必ず「別の世界から来た」って答えるの。だから、そういった特徴の人間族の事をうち達は異世界人って呼んでいるわけ。フジシロリョータは、初めから言葉が通じていたけど……」


 なるほどな。

 それで僕に言葉が通じる様にしたわけだ。

 そりゃあ苦情も出て来るわ、いきなり言葉の通じない外国へ放り出されるようなものだからな。


「そこはまぁ色々ありまして……あの、僕より先に来た異世界人ってどうしているの?」


 正直悪い予感がするけど、これは聞いておかないとやばい気がする。


「うちが聞いた話だと、魔王に勝負を挑んで命を落とした人、逃げ帰って何処かで静かに暮らしている人、旅に出た人や……」


「ちょっと待った! 魔王ってそんなに強いの!?」


 僕は持ってなかったけど、他の転移者ってチート能力を持っているはずだよな。

 それでも勝てないとかどんな化け物だ。

 はっ! 魔王に勝てないから数多くの転移者を送っているわけか!

 あのくそ女神! 僕を駒としか考えていないのかよ!


「うん、かなり強いよ。けど、寝ている所を邪魔しなければ基本何もしてこないわ」


「……へ? 寝てる……? 魔王って世界侵略を企んでいるんじゃ……」


「はあ? あのぐ~たら魔王が世界征服? あっはははは! なにそれ! そんなのない、あるわけないわ! あっはははは! あ~お腹が痛い!」


 アリサがお腹を押さえて笑っている。

 この感じだと、冗談ではないみたいだ。

 じゃあ僕がこの世界に送られた意味ってなんなんだよ?

 今すぐにでも女神に問い詰めたい。


「ひい~ひい~……なんで異世界人って、魔王に挑むのか不思議に思っていたんだけど、誰かにそう言われてたんだね。納得したわ」


 僕もこの世界の住人だったら同じような事おもったろうな。


「でも、この世界が危機だと思って、フジシロリョータも来てくれたんだよね。ありがとう」


「え? あ……うん……」


 少なからず下心があったのも事実だから、そのお礼の言葉はちょっと心に刺さるな。

 つか、何でフジシロリョータってフルネームで呼ぶんだろう。

 まぁ異性に名前で呼ばれるのもなんか恥ずかしいし、これでいいや。


「でさ、うちからも聞きたいんだけど、ここはどこ?」


「あ、ここは無人島で……ハッ!」


 そうだ、アリサはハーピーだから空が飛べる。

 なら、この島から脱出できるじゃないか。


「こ、ここは無人島なんだ! 申し訳ないけど、僕を人のいる所まで飛んで運んで行ってほしいんだ!」


「……あ~……それは無理」


「え……なんで……? あーそうか、僕の大きさだと君1人じゃ運べないよね。じゃあ人の居るとこまで飛んで助けを求めてくれないかな?」


「……それも無理」


「なんで!?」


「いや、今のうちは飛べないし……」


「ええっ!? 君には翼があるじゃないか! ハーピーが空を飛べないっておかしいだろ!」


「翼があるからって、自由に空を飛べるわけじゃい。風魔法を使って、その風に乗っているから飛べるの。けど、今のうちにはこれがついてるから無理」


 アリサが首枷に指をさした。


「その首枷がどうしたの?」


「そうか、異世界人だからわかんないのか。これは弱体化の刻印が入った吸魔石の枷よ」


「弱体化の刻印? 吸魔石?」


 なんじゃそれ。


「吸魔石は、魔力を吸い取る性質を持つ石なの。さらに弱体化の刻印のせいで、うちの身体能力も著しく落ちているわけ。だから、今のうちは一切魔法を使えないから飛べないの」


 あの首枷にそんな力がったのか。


「何でそんな物を……?」


「……うちはね、元々世界中を旅していたんだ。この広い世界をこの目で見たくて……けど、油断して人さらいに捕まってね、奴隷として売るために船に乗せられたんだけど……嵐で船が沈んで……」


 それでこの島に流れ着いていたわけか。

 なるほど、妙に加工された木片が砂浜に流れ着いているなと思ったけど船の残骸だったのか。

 けど良かった、アリサが犯罪者じゃなくて……アリサ的には奴隷として売られかけていたから、全く良くはないけども。


「……その吸魔石は壊せないの?」


「ものすごく硬くて駄目、熱で溶かして形を変えるしかないの。でも、マグマくらい熱くないと駄目だから、外れる前にうちの体が燃え尽きちゃうわ」


 おお、それは無理だ。


「色々と事情はわかった……仕方ない……船で救助されるのを期待するしかないわけか……」


 はあーいつになるやら。


「あ~……それも難しいかな」


「うえっ! 何で!?」


「この海域は1年中暖かいの、だから寒さに弱い多くのドラゴン系がこの辺りに住み着いているわけ」


「……ドラゴン?」


 マジ?

 そんなと恐ろしいところに僕いるの?


「そうなると、普通の船はここを渡らないわ。渡るとすれば、うちみたいにさらった人や違法物を積んだ悪徳な船よ。そんな人達が乗った船が遭難者を助けると思う?」


 全く持って思いません。

 仮に救助されたとしても、そいつ等に何をされるかわからない。

 じゃあ何か、ここで暮らすか自力で無人島を脱出するかないのか?

 ものすごくあの女神に文句を言いたい……。

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