第10話 相棒が生徒会に選ばれた!?

 数日たった放課後のことだ。


「え、お前が生徒会に選ばれた!?」


 今日も俺が友人がいる三年生の階まで迎えに行っていた。そこで、友人から報告を受けたのだ。


「急に教室に生徒会長が来て、これから生徒会の一員なって言われたんだよ。なんで俺なのかもよく分からなくて。俺生徒会長とろくに会話もしてないし、君のことを気に入ってるっていってたのに」

「大丈夫か? すげえ嬉しいのに、すげえ心配だよ」


 なぜ、突然生徒会長は友人のことを生徒会に入れようと思ったのか。すでにいる生徒会役員をクビにしてまで生徒会に入れるほど、会長と友人が話しているところをそもそも見ていない。生徒会は授業を受けに来ないらしいから、関わりもなかったはずだ。


 友人が生徒会に侵入できることは、理事長からの依頼が進むのですごく嬉しい。ただ、友人をひとりで危険な場所に送り込んでしまうことになる自分の無力さに辛くなる。

 俺もどうにか、どうにかして生徒会に潜入しなければ。どうやればいいだろう。


「だから俺はこれから生徒会室に行くから、寮には先に帰ってて」

「おい、俺様直々に迎えに来てやったぞ」


 生徒会長が、教室の入口から友人を呼んでいる。俺は慌てて顔を隠した。


「それじゃ」


 友人は俺に軽く手をふると、生徒会長についていった。周りの反応を見ても、友人の魅力は明らかだ。俺はひとりで寮に帰る。

 友人が戻ってくるまでは、何も仕事が手に付きそうにない。ソファに座ってみたり、立ち上がったり、パソコンの前に座ったり、また立ち上がったり。部屋をぐるぐる歩き回り、少し生徒会の様子を覗きに行こうかと寮の部屋から足を一歩踏み出して、今の俺にできることはないと部屋に戻る。


 ガチャ。


 ドアが開いて、俺は首をぐりんとそちらに向ける。友人が親衛隊に送り届けられて帰ってきた。玄関に駆け寄る。


「おかえり! 大丈夫だったか! なにかされなかったか」


 怪我がないか、全身を慌てて眺めていると、顔を押し返された。


「大丈夫だよ、もう。落ち着いて」

「腹減ってないか?」

「紅茶を何杯も飲まされて、お菓子も無限に食べさせられたから、もうお腹いっぱいだよ」


 とりあえずシャワーと言って、友人は化粧を落として、髪をタオルで乾かしながら、ジャージ姿でソファに座った。ドライヤーをリビングのコンセントに繋いで、友人の髪の毛を乾かしてやる。


「ありがとー」

「なにか分かったか?」

「全く、誰も生徒会の仕事はしてなかったね」

「結局、風紀委員長の言っていた通りだったのか」

「それから、生徒会室は生徒会の人しか入っちゃいけないことになっているみたいなんだけど、みんな自分の親衛隊を呼んで、遊んだりおしゃべりしたり、お茶をして過ごしてたよ」

「親衛隊も生徒会室に入れる状態なのか」

「あと、風紀委員長が書類の催促に来て、親衛隊の人たちを生徒会室から追い出そうとして怒ってたよ」

「風紀委員会も来たんだ」

「毎日来てるみたい、生徒会長が、毎日よく来るもんだって言ってたから」

「嫌味だろうな。他にトラブルを起こしたりはしてなかったか?」

「うーん、他は特になかったかな。もう解散みたいな流れになって、みんな帰るみたいだったから、俺も帰ってきたんだ。親衛隊の子を部屋に連れ込んだりしてるみたいだよ」

「げ、まじで?」


 柳田が、寮の他の部屋に泊まったら駄目って言ってたから、校則違反をしていることになる。風紀委員ブチギレ案件だな。そして多分、特定の子と付き合うわけでもなく、気になった子を部屋に連れ込んでその日限りの関係を繰り返しているのだろう。一度でも体の関係を持てば、自分が憧れの人にとって特別な人間だと思ってしまい、よけい熱心に親衛隊の活動をしてしまうことになる。

 そういう女子中高生をよく見てきた。チャラい年上の男に引っかかって、自分がたくさんいるガールフレンドの一人だと気づかずに小遣いを貢いでしまうのだ。

 女の子ではよく見てきたが、この学校では珍しく男子が良いようにされているらしい。


「お前の親衛隊の奴らは、関係を迫ってきたりしないのか」

「多分そういうことも考えてると思うけど、断れば引き下がってくれるから」

「そっか。よし、髪乾いたぞ」


 化粧を落とした友人は、肩丈のサラサラの髪の毛にイケメンで、生徒会に入るにふさわしいルックスをしている。親衛隊と言う名のファンクラブができるのも自然な流れだ。


 とりあえず今日はもう寝てしまうことにする。キングサイズベッドに二人で横になる。疲れた様子で俺に背中を向けて丸くなって眠る友人の背中に、色々話しかける。


「むちゃしすぎてないか」

「してないよ」

「なんかあったら言うんだぞ」

「オッケー」

「無理だと思ったら、逃げ出しても良いんだからな」

「うるさいよ。大丈夫だって。俺そんなにか弱くないし」

「か弱いだろ」

「俺のこと、信じてないでしょ」


 ちょっと振り返った友人が、眠そうに言った。ドキッとした。温厚な友人を怒らせてしまった。それに、友人の言ったことは図星だった。俺がいなきゃ何もできないと思っていたから。けれどこの学校では、何もできないのは俺の方だ。生徒会長と関われるチャンスをみすみす逃して、生徒会に入れる顔でもない。


 友人の寝息が聞こえてくる。凄く怒っていたわけではないらしい。けれど、俺は心がざわざわして、なかなか眠りにつくことができなかった。


 朝、結局朝方にちょっとだけ眠ることができた俺は、それでもいつもと同じ時間に目が冷めた。友人が隣で眠っているのを起こさないように、こっそりベッドから抜け出した。


 窓から、まだ薄暗い山の下の町並みを眺める。霧がかかっている。洗顔してさっぱりしてから、ペットボトルの水を飲むと、寝ている間に水分が失われていたらしく、全身が潤っていくのを感じた。


 夜中、ずっと考えていた。俺はこれからどうすればいいかと。友人のことを信じてみようと思う。ただ、俺にできる方法で生徒会から情報を得ようと。


「おはよー」

「おう。あのさ」

「うん、なぁに」

「俺、風紀委員に入ろうと思う」

「えっ?」

「生徒会のことはお前に任せる。風紀委員会の仕事に、校内の見回りがあるんだ。俺は風紀委員会に入って、生徒のトラブルを解決して回りたいと思う。力には自信があるから。それに、生徒会に書類を請求しに行けるから、たまに顔を出すことができる。ちょいちょい報告しあおうぜ」


 風紀委員会には、試験の成績でトップ3を取れば入る権利が得られる。一度高校の授業を受けている俺なら、目指せると思う。その辺の話も追加で友人に聞かせた。


「応援するよ。俺は勉強できないけど、君ならできるよ」


 友人が、俺の目をしっかり見て言った。かっこいい。いや、違う。本気で応援してくれているんだと分かった。頑張ろう。


 校舎に行って、授業を受けながら、俺は今までと違ってマーカーで線を引きながら、先生の言葉にしっかり耳を傾けた。先生が繰り返して説明したところ、先生が黒板に書いた文字の大きさ、黒板の文字に白以外のチョークで下線を引いた部分。そういうところで自分の教科書にマーカーを引く。教科書は綺麗に書いたりはしない。とにかく何も考えず、全部書ききることに重点を置く。


 授業の終わり頃、先生が時間内に教えきろうとスピードアップする。授業が終わればクラス委員長が遠慮なく黒板を消すから、ここでとにかく自分だけが読めるくらいの汚い文字でノートに板書を書きなぐる。そして分からなかった部分を聞くため、教室から出ようとする準備をする先生をひっ捕まえて質問。自分の机に戻ったら、ノートの開いているところに先生から聞いたことを書き込む。


「なぁ、お前そんなに勉強して急にどうしたんだよ」


 不良が俺の顔を覗き込んでくる。


「中間試験で一位が取りたい」

「は? 風紀委員のやつらが取るだろ。お前そんなに頭いいのか」

「よくないから勉強してる」

「もしかして、風紀委員に入りたいのか」


 爽やか君に図星をつかれる。


「中間で一位とったら風紀委員入れるよな?」


 一応確認しておく。何か俺の勘違いがあったら困るから。


「おう、そうだぜ。風紀委員か、内申点上がるもんな」


 どうやら爽やかくんは、俺が内申点を上げるために風紀委員に入りたいと思っていると勘違いしているらしいが、それで良い。


「まあ、クラス委員のガラじゃないし、生徒会に入れる顔じゃないし、それしかないだろうな」

「失礼なやつだな」


 不良の髪を乱してやろうとワシャワシャして、不良ともみ合いになる。


「こいつ頭いいから、分かんないとこあったら聞くと良いぜ」


 爽やかくんが不良を指差す。


「はぁ? うっせ」

「こいつ、いっつも放課後に図書室で勉強してるんだぜ」

「まじで?」

「言うなよ!」


 不良をまじまじと見てしまう。好きなときに授業をサボるくせに、図書室で勉強してるのか。頭いいやつがどうしてその格好に落ち着くのか謎だ。


「お前も風紀委員になるのか」

「なれねーよ。トップ3は風紀委員が固めてんだよ。俺はその下」


 つまり、この不良は学年4位というわけだ。


「明日からテスト期間だろ。放課後一緒に勉強しようぜ!」


 不良の肩をがっしり掴む。問題を出し合う勉強法が、一番頭に入ると過去の試験勉強の経験から俺は考えている。授業への理解力が高い者同士で勉強するのがいいだろう。


「は? 勝手にやってろ」

「頼むよ。俺、どうしても風紀委員に入りたいんだ。一緒に勉強したい」


 顔の前で手を合わせる。マジで頼む。


「んなツラすんなよ」

「せっかくだから俺もいれてくれよ。試験期間は部活がないからさ。赤点取ると部活いけなくなるんだよ」


 爽やかくんが言う。


「じゃあ三人で勉強しようぜ!」

「はぁ」

「人に教えると頭に入るらしいよ」


 インプットしたあとにアウトプットすることで学んだ内容が記憶に定着すると本で読んだ。覚えたことを人に話したり、記録をつけたり、ブログに書いたりすると良いという。


「まじで? 俺に教えることで頭良くなるじゃん」


 爽やかくんが笑顔でいうが、それは遠回しに勉強教えてくれって言ってるのでは?

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