第十話 第4階層


 ガンテツさんの所で新しい武器を購入した翌朝


 俺とハンナは再びダンジョンに来ていた。


 俺を取り囲むようにしているボブゴブリンの群れを剣の一振りが薙ぎ払う


 ガンテツさんが若い頃に作ったという『竜断ちのドラゴンキラー


 ガンテツさんの師匠から受け継いだダンジョン産のオリジナルに比べると、同じ名を名乗るのも恥ずかしい駄作だとの事だが、俺にとっては十分な業物だと思う。


 目の前のゴブリンジェネラルに向けて力を込めた一撃を叩きこむ。


「スラッシュ!」


 俺の一振りは近くにいたボブゴブリンもろともゴブリンジェネラルを両断する。


 もはやゴブリンジェネラルもジャイアントオークも相手にならないと感じるようになったので、第4階層に進むことにした。




 第4階層では新しくトレントが出てくるようになる。


 トレントは木に擬態しているため攻撃してくるまでトレントだと気づくことは難しいらしい。


 気が付くと周り全ての木がトレントだったなんて事もあるため、非常に厄介な敵だと思う。


「何で倒さないの?」


 森のフィールドを歩いていると不意にハンナが一本の木を指さし尋ねてきた。


 その気は何の変哲もない普通の木で何を言っているのか理解するのに数秒の時間を要した。


「普通の木だよ?」


「何を言ってるのよ? 全然違うじゃない」


 ハンナに促されて仕方なく木こりのように目の前の何の変哲もない木を剣で叩く


「ギィイィヤァアァーッ」という叫びと共に目の前の木が突如動き始める。


「ほらね」


「まじか?」


 俺は驚きながらも剣でトレントを切り倒していく。


 トレントは力が強いため不意打ちをされれば厄介ではあるが、スピードはそれほど速くないので落ち着いて対処すれば問題ない。


 ゴブリンジェネラルのように大量の手下を引き連れているタイプのモンスターではないので時間当たりの能力値の上昇は少ないがそれを補って余りある恩恵がトレントにはある。


「ジーク!! リンゴよ!!」


 興奮したハンナが地面に転がったリンゴを拾い上げる。


 トレントは倒すと灰になり何らかの果物を落としてくれる。


 今回はリンゴを落としてくれたみたいだ。


 早速ハンナがリンゴにかぶりついてる。


 もちろん『補って余りある恩恵』というのはリンゴの事ではない。


 トレントを狩るメリットは何と言ってもスキルを持っているというところだ。


 持っているスキルは個体によって違いがあるが、この階層ででてくるトレントは『硬化』のスキルを持っている。


『硬化』のスキルは身体の表面を硬くすることで防御力を上げる事が出来る。


 スキルのレベルにもよるが弱い攻撃によるダメージを完全に無効かする事も可能なスキルだ。


 スキルランクは一番低いランク1で決して強いスキルではない。


「さぁどんどん行くわよ!」


 リンゴを食べ終わりご機嫌なハンナが次の果物を求めて催促してくる。


「トレントがいたら教えてもらっていいかな」


「アタシに任せなさい! あっちの木がそうよ!」


「ありがとう」


 ハンナに導かれるままに次のトレントへと向かっていく。


 途中でゴブリンジェネラルやジャイアントオークとの戦闘を挟みながらもトレントをひたすら狩り続ける。


 そしてついにその時が訪れた。


「ステータスオープン」


 ############

 ステータス


 名前:ジーク

 年齢:12歳

 レベル:1

 職業:簒奪者


(能力値)

 筋力:1337

 体力:1297

 頑強:1224

 敏捷:1237

 魔法:1001


(スキル)

 アクティブ:(Runk2)スラッシュ_Lv1、(Runk1)硬化_Lv1

 パッシブ:(Runk-)簒奪

(加護)

 木妖精の加護(微弱)

   回復力上昇(微弱)

   呪い耐性(微弱)

   毒耐性(微弱)

   木属性付与

(呪い)

 経験値取得率0%、転職不可

 ############


 表示されるスキルに『硬化』が加わっている。


 ランクが低くスキルレベルも低いため実用性はあまりなさそうだが、記念すべき簒奪による初スキル取得のため感慨深いものがある。


 そして気づけば能力値が全て1000を超えている。


 切りの良いタイミングなので、いったん狩りはここで切り上げ明日からは第5階層に挑戦する事にする。


 ハンナも大量の果物を手に入れる事ができて満足げだ。


 ・


 ・


 ・


 少し早めに狩りを切り上げた俺達は冒険者ギルドに来ていた。


 理由は冒険者ギルド講習を受けるためだ。


 冒険者ギルドでは新人の冒険者向けに定期的に冒険者ギルド講習が開かれている。


 参加は強制ではないが、冒険者として必須の情報を知る事や人脈を作るのに役に立つから1度は参加したほうがいいと勧められていたのでちょうどいいタイミングだと思い参加する事にしたのだ。


 講習を担当する講師の先生は白髪のおじいさんだが元はBランクの冒険者という事もあり老いを感じさせない佇まいをしている。


 講習に参加しているのは俺と同じ12歳~15歳くらいまでの少年たちが主だが、中には20代やそれ以上の年齢のの人もちらほらといる。


 冒険者は成功すれば巨万の富を得られる職業という事もあり、年齢を重ねてから一攫千金を夢見て冒険者に成るという人もそれなりにいるそうだ。


 講義の内容は非常に有意義なものだったが、開始5分でハンナは熟睡モードに入り、他の参加者の中にも途中から眠そうにしている子がちらほらとで出してきた。


 講師の先生はそんな様子を気にする風でもなく抗議を続けていく。


「ノービスのダンジョンは全部で7階層に分かれており、今ここにいる皆さんの殆どは1階層か2階層で狩りを行いながらレベルをあげているものと思います。 2階層で狩りを行っている方は既に感じていると思いますが、ダンジョンは階層が深くなるほどに強いモンスターが現れるようになります。 これはなぜだかわかりますか」


 講師の先生の問いかけに一人の少年が手を上げる。


「では答えてみてください」


「ダンジョンの階層が深いほどに魔素が濃いためです。 魔素が濃い場所では強いモンスターが生まれる可能性が高いため、階層が深いほどそこで生まれるモンスターは強いモンスターである可能性が高いです」


「その通りです。 では、そんな強いモンスターがその階層にとどまっている理由はわかりますか」


「モンスターは魔素の濃い場所を好む性質があるためより深い階層に進もうとします。 ただし、自分よりも強いモンスターがいる場合はそれ以上に進むことができないためその場所にとどまるものと思われます」


「素晴らしい。 その通りです」


 講師の先生はその回答に満足したのか嬉しそうにうなずく


「ダンジョンの各階層で生まれるモンスターは決まっていると言われており、1階層目ではゴブリンとオーク、2階層目ではボブゴブリンとブルオーク、3階層目ではゴブリンジェネラルとジャイアントオーク、4階層目ではトレント、5階層目ではレッサーオーガ、6階層ではオーガ、7階層ではエルダートレントとなっています」


 講師の先生が一瞬だけ生徒たちの方に視線を走らせ、軽く表情を確認してから再び説明を続ける。


「モンスターはより深い階層へと進もうとするため、基本的には深い階層から浅い階層へと出てくるという事はありません。 ただし、例外が存在しないわけではありません。 稀に通常個体よりもはるかに強い力を持つ個体が生まれる事があります。 偶発的に生まれる通常の種より強い個体を『固有種ユニーク』 異種族間の交配で稀に生まれる個体を『混合種ミックス』 そして何らの事情で進化した個体を『変異種イレギュラー』と呼びますが、それらの種が生まれると階層が荒れる事があります。 同じ階層にいるモンスターがそれらの種を避けるように一つ上の階層に移動する為です」


 少しだけ生徒たちの間に緊張感がでてきたことを感じ取ったのか講師の先生が軽く咳ばらいをした後に笑みを浮かべ続ける。


「とはいえ、ノービスのダンジョンではこれらの種が生まれる事は稀で、前回発生したのは数年前になります。 余程の偶然が起こらない限りはこう言った種と相対する可能性は低いです。 しかし、可能性が無いわけではないので用心を怠る事は出来ません」


「数年前に発生した種と言うのはどういったものでしょうか」


 生徒の一人が質問すると講師の先生は過去を振り返るように少し考えこむ


「数年前に現れたのはオーガの固有種ユニークだったと聞いています。 通常はランク3の上位クラスの強さを持つオーガですが、その時に現れたオーガはランク4の上位クラスの力だったと聞いています。 ちなみに最下層に出てくるエルダートレントはランク4の下位クラスですので、エルダートレントよりも強いという事になりますね」


 少し空気が重くなってきたのを感じたのか講師の先生が再び咳ばらいをする。


「これらの種が生まれるのは稀な事ですが冒険者を長く続けていけば避ける事が出来ない相手でもあります。 基本的な対策としては『無理をしない』という事です。 勝てない相手からは逃げればよいのです。 情報を持ち帰るという事も大事な成果となりますからね」


 少し空気が重くなったがその後も講師の先生の話は続いていった。


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