第十一話 第5階層
冒険者ギルドの新人向け講習だが非常に有意義な時間であったと思う。
辺境の村育ちのジークの知識は現役を引退した冒険者に比べて大きく劣るため、学びとなる事が多かった。
中でもスキルについては非常に深い造詣を持つ講師の先生だったので俺のスキルについての考え方も大きく変わっていた。
左右の手にそれぞれ泥で作った団子を用意する。
そして右手の泥団子にだけ力を籠め二つの団子をぶつけてみる。
左の団子は崩れてしまったが右の団子は少し形が崩れたがほとんど原型をとどめている。
これだけでも今回の冒険者ギルドの講習を受けた成果があったと言えるだろう。
俺は硬化のスキルは自分自身の肉体にだけ効果があるものと思い込んでいたが、スキルと言うものは種類によって違いはあるものの『力を込めた対象にも影響を及ぼす事が可能』なのだ。
右手に持った泥団子に硬化のスキルをかける事で同じ泥団子である左手のそれよりも固くなったため、お互いがぶつかったときに左手の泥団子だけが壊れたのだ。
右手の泥団子も少し形が崩れたがこれはスキルのレベルが低く効果が十分ではなかったからだろう。
次に俺はアイテム袋から剣を取り出す。
そして手にした剣に対して力を込める。
剣全体に硬化の力が行き渡ったのを感じる。
モンスターを倒す度に能力値が上昇する簒奪の特性上、いつかは今使っている剣が耐えられないくらいに力が増してしまう事が想定される。
硬化のスキルを使う事でそれを少し先延ばしにする事が出来るかもしれないと考えたのだ。
今のLv1の硬化では焼け石に水と言う感じもするが、ノービスの街にいる間はトレントで硬化のスキルレベルを上げる事が可能なのである程度カバーする事が可能だろう。
・
・
・
ノービスのダンジョンは5階層も森のフィールドとなっている。
ゴブリンジェネラルやジャイアントオークなどは出てこなくなる代わりにレッサーオーガがでてくるようになる。
レッサーオーガはボブゴブリンと同じくらいのサイズだが、ランク3のモンスターという事もあり能力値が高い。
そして、能力値以上に厄介なのが『鬼神』というスキルを使うところである。
『鬼神』のスキルはレッサーオーガやオーガなど鬼属のモンスターに共通してみられるスキルで一時的に身体能力が爆発的に上昇し、鋼の様な肉体と不死身に近い再生力が得られるという。
まさに鬼神の如き強さを得る事ができるスキルだ。
効果が高い分だけ反動も大きく、効果が切れるとしばらくは動くこともできないような状態になるらしい。
自分で使う事を考えるとデメリットが大きくて使いどころが難しく、相手が使ってくることを考えると非常に厄介なスキルである。
そんなことを考えていると目の前にレッサーオーガが現れる。
第5階層ででてくるレッサーオーガ1匹~3匹程度と少数な事が多い。
逆に第6階層まで進むとオーガの取り巻きとして10匹以上のレッサーオーガを同時に相手する必要が出てくる。
森の中を歩いていると1匹のレッサーオーガが現れる。
冒険者ギルドの講習で4階層でしばらく力を付けた冒険者は5階層に来ることなく大都市のダンジョンに移っていくと言っていたが、ジャイアントオークとレッサーオーガのステータスを比較するとそれもうなずける。
############
ステータス
種族:ジャイアントオーク
ランク:2
(能力値)
筋力:420
体力:350
頑強:330
敏捷:450
魔法:130
(スキル)
アクティブ:-
パッシブ:‐
############
ステータス
種族:レッサーオーガ
ランク:3
(能力値)
筋力:850
体力:750
頑強:850
敏捷:450
魔法:150
(スキル)
アクティブ:(Runk3)鬼神
パッシブ:‐
############
単純なステータスの比較だと、レッサーオーガはジャイアントオークの倍くらいとなっている。
これらの数値は冒険者ギルドの講習で配られたノービスのダンジョンのモンスターの平均的な能力値とスキル一覧に記載されたものだ。
相手の能力値が事前にわかっている状態での戦闘に慣れてしまうと未知の敵への対応力が磨かれないという意見もあるが、相手の強さに合わせて準備をして攻略するというのも冒険者に必須の技能であるとは冒険者ギルドの講習の講師の先生の談だ。
どっちなんだよとは俺も思う。
冒険者ギルドには『鑑定』というスキルを持つ専属の鑑定士がいて、モンスターの能力値を測って記録しているらしい。
因みに、第4階層からでてくるトレントの能力値はジャイアントオークとさほど変わらない。
############
ステータス
種族:トレント
ランク:2
(能力値)
筋力:450
体力:450
頑強:350
敏捷:100
魔法:150
(スキル)
アクティブ:(Runk1)硬化
パッシブ:‐
############
『素の能力×能力値=強さ』となるため必ずしも能力値が高いと強いというわけではないが、強さの目安としてはわかりやすいだろう。
トレントは木なのになぜ動くのかという気もするが、厳密にいうとトレントは木ではなく木に擬態したモンスターなのだとか。
余計なことを考えていると、目の前のレッサーオーガが一気に距離を詰めてくる。
俺はそれを迎え撃つように剣を振るう。
いかにレッサーオーガの能力値が高くても、今の俺と比較すると力は俺の半分、速さは俺の三割程度しかない。
素の能力ではレッサーオーガの方が勝っているとしても能力値の圧倒的な差を覆すほどではない。
レッサーオーガの魔石はそれなりに高値で買い取ってもらえるが肉は硬くて食用には向かない。
レッサーオーガの筋肉は硬く解体用のナイフをすぐにダメにしてしまう。
そのため高額になる解体の費用などを考慮すると金銭的には割の合わない相手だ。
俺は出会うレッサーオーガを片っ端っから斬り殺していく。
ハンナのおかげで擬態しているトレントも簡単に見つける事ができるため、順調にスキルが育っていく。
能力値だけを考えると下の階層で大量の雑魚を狩っている方が効率的かもしれないが、スキルも伸ばしていきたいのでこの階層で狩りを行っていく。
次の階層へと続く入り口を探しながら狩りをしていると思いがけず幸運が落ちていた。
「ピカピカの箱ね」
ハンナが興味深そうに宝箱をツンツンとつつく。
「ダンジョンには稀に宝箱が落ちているというけど、こんなに早く見つかるとは思わなかった」
「何かいいものが入っているのかしら? まさか、黄金の果実!」
ハンナは期待で羽をパタパタとさせながら、宝箱を開いていく。
そして中に入っているものを見て一気に落胆する。
「石ころ......」
そこにあったのは、ルーンと呼ばれる特殊な文字が刻まれた石ころだった。
「いらない」
ハンナがそれを拾いあげ、ポイっと捨ててしまったので慌てて回収する。
ルーンの刻まれた石はスキルストーンと言われ使う事で新しいスキルを取得する事ができる。
えられるスキルは刻まれたルーンによって変わるが、あいにくと俺ではルーンを読むことができないのでなんのスキルを得られるかはわからない。
まぁスキルは取得してマイナスになるという事は無いので、とりあえず使ってみる事にする。
スキルストーンを握った状態で力を込めるとスキルを取得できるという事なので早速使ってみるが、全く反応しない。
何度か試してみたが結果は変わらなかった。
「なにしてるの?」
ハンナが興味深そうにこちらを覗き込んでくる。
「この石に力を込めるとスキルを得られるはずなんだけど、うまくいかないみたいなんだ」
「ふーん」
ハンナがスキルストーンを持ち上げ「うーん」と唸るとスキルストーンが輝きだす。
「眩しいわね」
何が起こったのか理解していないような感じのハンナの抱えているスキルストーンからルーンの文字が消えている。
どうやら俺は呪いの影響でスキルストーンからスキルを得る事もできないようだ。
「どんなスキルが手に入ったの?」
「うーん、凍結......冷やすスキルかしら」
「凍らせるスキルか、果物を凍らせてアイスやシャーベットなんかが作れるんじゃないかな」
「それなに?」
「食べてみる?」
俺はアイテム袋から果汁を取り出しそれをハンナのスキルで凍らせてもらう
そして凍った果汁を砕いて即席のかき氷を作る
「うんまー! なにこれうんまー!!」
どうやら満足してもらえたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます