第九話 装備新調
ノービスの街に戻った俺達はアイテム袋の中身を買い取ってもらうために冒険者ギルドの裏口に来ていた。
すると前回買取をお願いしたスキンヘッドのおじさんがこちらに気づいて声をかけてくれる。
「昨日の今日でまた来るって事はダンジョンでも行ってきたのか?」
「当然よ。ボッコボコにしてきたわ!」
俺の代わりにハンナが答えるとおじさんは苦笑いを浮かべる。
「若い奴には無理をするのが多い。あまり先を急がず着実に進めていくのが長い目で見れば近道になる事もある。ベテランの指導を仰いだり同じ新人同士でパーティーを組むのも良いだろう。」
「ジークにはアタシがいるから問題ないわ。アタシたちならダンジョンくらい楽勝だわ」
「ははは、それは頼りになるな。」
なぜか俺を置いてけぼりでおじさんとハンナの会話が弾んでいく。
「ダンジョンはどこまで進んだんだ? まさか2階層には行ってないだろうな。」
「これを」
俺はアイテム袋からダンジョンの収穫品を取り出す。
ゴブリンの持っていた剣や槍、ブルオークにジャイアントオークの傷だらけの身体、そしてゴブリンジェネラルの甲冑と剣だ。
オークの肉はアイテム袋の容量の都合で捨ててきた。
ボブゴブリンは魔石以外は価値がないので取り出す手間を惜しんで拾ってもいない。
ブルオークの肉もかなり捨ててきてしまった。
「3階層まで潜ったのか......1人か?」
「アタシもいるわよ!」
「ハンナと二人で潜りました」
「ふーん、良い職業かスキルを得たのか......まぁ深くは詮索しない」
「実は3階層で使っていた剣が折れてしまって、新しい剣を買おうと思っているのですがどこに行けばよい剣が手に入るかわからなくて。」
「折れた剣を見せてみろ」
言われるがままに半ばから折れたショートソードを手渡す。
おじさんはショートソードを鞘から抜き、時々角度を変えたりしながら隅々までじっくりと眺める。
「なるほどな、ジャイアントオークを狩れるのも納得だな」
「?」
おじさんが何をなっとくしたのかまったくわからない。
「まだ使い込まれていないのに柄の部分に握り跡がはっきりとついている。 使い手の握力に柄が耐えきれなかったんだろう。 お前さんの筋量から推測するに筋力が200や300じゃこうはならない。 最低でも400か......500を超えているんじゃないか?」
一流の職人ならば使っている剣を見ただけで能力値が分かるという事なのだろう。
「なんてな。 俺は剣に関しては素人だ剣を見ても何もわからん」
どうやら適当なことを言っていたようだ。
ハンナも肩の上であきれ顔だ。
「 新しい剣が欲しければガンテツさんの所に行ってみろ。この街では一番の鍛冶師だ。 東の門の近くにある酒場の裏にある」
「おっさんなかなかわかってるわね! なんだって一番良いのが一番だわ」
ハンナが失礼なことを言い出すがおじさんは気にした風でもなく笑っている。
「ははは、俺にも一応『バラス』って名前があるんだ、おっさんはやめてくれよ。」
「バラスさんありがとうございます」
「礼なんかいらん」
強面な顔のバラスさんが少し照れたような顔をする。
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バラスさんの紹介先であるガンテツさんのお店はすぐに見つかった。
ダンジョン帰りの冒険者や街の職人たちで賑わう酒場の片隅にある小さな鍛冶屋
看板は無く静まり返ったその場所にガンテツさんがいるそうだ。
建物に入ると中には様々な刀剣や鎧などが並んでおりその奥には筋骨隆々でモジャモジャなおじさんが槌を使って作業をしている。
「あれはドワーフね」
「ドワーフ?」
「珍しいものを連れておるな」
ハンナの声が聞こえたのかおじさんがこちらへとやってくる。
「ガンテツさんでしょうか」
「こんな寂れた場所に何の用じゃ」
「使っていた剣が折れてしまって新しい剣が必要なのですが、バラスさんからこの街ではガンテツさんが一番の鍛冶師と伺ってきました」
「見せてみろ」
腰に差していた折れたショートソードをガンテツさんに見せると柄や刃の部分をじっくりと眺める。
バラスさんが冒険者ギルドでやっていた動作に似ているがあれはガンテツさんを真似ていたのだろうか。
「剣が合ってないな」
「合ってない......ですか?」
「ナイフやショートソードなんかの短くて軽い剣を使う場合『斬る技術』が求められる。 力で斬ろうとするとすぐに刃がダメになっちまうからな。 刃がダメになってそれでも使い続ければこんな風にポッキリ折れちまう。 お前さんは力はあるようだからもっと重量のある剣の方が合っているんだろうな。 まだ若いようだからこれから斬る技術を習得するってのなら話は別だがな」
「重量のある剣と言うとどういうものがありますか」
「スタンダードなのがロングソードかブロードソード。 より大きいものとなるとクレイモアやバスタードソードなんかがあるな。 それより大きいものとなると『巨人の剣』の異名を持つ『ギガントソード』や『竜断ちの剣』の異名を持つ『ドラゴンキラー』なんてのもある」
「ドラゴンキラー......」
「ギガントソードやドラゴンキラーは使い手が少ないからうちにもほとんど在庫は無い。 そこにある奴くらいか」
ガンテツさんが部屋の奥に立てかけられた一振りの剣を指さす。
それは複雑な紋様が刻まれた巨大な剣だった。
横に立てかけられた鞘もまたそれに劣らぬくらいの複雑な紋様が刻まれている。
剣の長さは3メートル近くあり横幅も今まで見てきた剣とは比較にならないくらい広い。
「王都にあるダンジョンの最下層で手に入れた剣で俺の先代が縁あって買い取ったらしい。 いつかこれを超える剣を作れるようになりたいという目標にしていたらしいが結局これ以上のものは生涯作れなかったと嘆いていた。 俺もまたこいつを超えるものを作りたいと思っている」
「そんなに凄いの?」
興味が出たのかハンナが会話に加わってくる。
「使いこなすのが難しい剣ではあるが、完全に使いこなす事ができれば『天下百剣』にも劣らないだろうな」
「てんかひゃっけん?」
「装備品にも等級がある。 そして最高ランクであるSランクの装備品の中でも特に優れたものには特別な称号が与えられるのじゃ。 Sランクの刀剣類の中でも最高の100本に与えられる称号が『天下百剣』じゃ。 その殆どがダンジョンからの出土品で鍛冶師が作った物は歴史上まだ1本だけしかない。 ワシもいつかは『天下百剣』に名を連ねるような剣を作りたいと思っている」
「ふーん」
「もっともこれは多くのドワーフにとっての夢でもあるがな」
「ドワーフですか」
「お前さんは
「そうなんですね。 知らなくてすみません」
「気にする必要ない。 話が逸れてしまったが、新しい剣が欲しいという事じゃが種類はどうする」
「実際に振ってみてから選んでもいいですか」
「当然じゃな。 裏口を出たところに剣を振るためのスペースがある。 好きなだけ試すと良い」
ガンテツさんの許可が下りたので俺は一通りの武器を試してみる。
そして最後に残った1本の剣を試し俺は決断した......と言うよりも、この名を聞いた瞬間に俺の気持ちは決まっていた。
他の武器も試したが、それは俺の中では確認の作業に過ぎなかった。
「決めました」
「どれにするの?」
ハンナが興味津々で聞いてくるので俺は手に持った一本の剣を掲げる。
「ほぉ、それにするのか」
「はい。これでお願いします」
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深夜の酒場
鍛冶師のガンテツと解体屋のバラスが同じテーブルで酒を飲んでいる。
「お前が俺に人をよこすなんて珍しい事もあるもんだな?」
「ジークの事か?」
ガンテツの問いかけに少し思案してからバラスが答える。
「そうだ」
「ジークがギルドにはじめて来たのは昨日の事だ。 その時持ってきたのはオークだけだった」
「それで?」
「解体屋を長くやっていると切り口を見ればどの程度の腕前かという事がわかるようになる。 オークの傷から推測するに3日前が150~180の間くらいだったものが前日に狩ったものは300近くまで来ていた。」
「何がだ?」
「筋力の能力値だ」
「ふーん。 だが今のあいつの筋力は恐らく500を超えてるぞ。」
「あぁそうだ。 たったの数日で200に満たない能力値を500まで伸ばしたって事だ」
「職業に恵まれたんじゃないのか? 成長の早い職業なら珍しい事でもないだろう」
「パーティーならそうだろうな。 ベテランに引っ張ってもらってレベリングをしていればそれくらいの成長をする事は珍しい事じゃない。 だがあいつはソロだ」
ガンテツはバラスの言葉を聞いて何かを思案するように少し沈黙をした後にジョッキに残ったビールを一気に飲み干す
「確かにあまり聞かないな」
「面白いガキが現れたから期待したくなったのさ」
「そういう事もあるか」
「それであいつはどの剣を選んだんだ?」
「あぁ......あいつが選んだのは俺が若い頃に
「戯れ?」
「師匠の剣を真似て作った1本だが、実用性が低くて買い手がつかなくて誇りをかぶってた剣だ」
「そんなものをなんで選んだんだ?」
「さぁな、もしかしたら竜でも殺したくなったのかもしれないな」
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