第七話 第2階層
ゴブリンやオークの群れを倒しながらダンジョンを先に進んでいくとダンジョンの入り口によく似た裂け目が現れる。
道に迷って入り口に戻ってきてしまったという事はもちろんない。
これは次の階層に続く入り口だ。
「さぁどんどん進むわよ!」
先ほどまで退屈そうにしていたハンナが急に気合をいれはじめる。
もしかしたら2階層に黄金の果実を落とすモンスターがいると思っているのかもしれない。
入り口の裂け目を通過するとそこは相変わらずの洞窟だった。
「……」
わかっていたことだがハンナの無言の視線が痛い。
入り口を通る前の高いテンションが一瞬にして急降下している。
「アタシの黄金の果実!」
「もう少し先になりそうかな」
7階層まで出てこないという事を伝えると暴れそうなので、あいまいな言い方でごまかす。
果物でハンナの機嫌をとっていると音に誘われてきたのかモンスターの群れが現れる。
ボブゴブリンの群れだ。
ボブゴブリンはがっちりとした体型の大人と同じくらいの背格好で力もそれなりに強い。
能力値も100を少し超える程度のゴブリンとくらべて倍近くあり、ゴブリンの4倍の力や素早さがあると思っていいだろう。
剣や槍を使うゴブリンとは異なりボブゴブリンはその怪力を活かして棍棒や槌を使う個体が多い。
ゴブリン同様に群れで行動するが、群れの中にゴブリンが混ざっているのが特徴だ。
ボブゴブリンを中心とした群れは、20~30程度の規模でその中に5匹くらいのボブゴブリンがいるというのが一般的だそうだ。
今回遭遇したのは30匹の群れでその中にボブゴブリンが7匹いる。
規模が大きくボブゴブリンの割合も多いというボブゴブリンの群れの中でも強力な群れだろう。
俺には能力値を大量に稼がせてくれる御馳走に見えてしまうが。
「デカゴブリンなんてアタシたちの敵じゃないのよ!」
肩に乗ったハンナがシャドーボクシングのようにパンチを繰り出すお得意の動作で「シュッ、シュッ」と口で言いながらボブゴブリンを威嚇する。
俺はゴブリンの群れを相手にしていた時と同様にボブゴブリンの群れの中に入り込み近くにいるモンスターを手当たり次第に斬りまくる。
既に俺の能力値はボブゴブリンの2倍近くある。
そしてモンスターを狩るたびにその差はどんどん広がっていく。
瞬く間に減っていくゴブリンの数に怒りをあらわにしたボブゴブリンの一匹がこちらに飛び込んでくるが、大振りな一撃を軽くかわして逆にこちらからのカウンターの一撃で仕留める。
ショートソードの一振りがボブゴブリンの首を斬り飛ばす。
それを見た残りのボブゴブリン達が怒りをあらわにして一斉に襲い掛かってくる。
なんどか大振りな一撃を躱して仕留めるという動作を繰り返していくと。
後にはボブゴブリンとゴブリンの亡骸だけが横たわっていた。
ランク1の中でも上位に位置するボブゴブリンの群れが相手でもさしたる苦戦をする事なく勝つ事が出来た。
着実に強くなっていることを痛感する。
「ふんっ!」
肩の上でハンナがまるで自身の手柄を誇るかのように仁王立ちでボブゴブリン達の亡骸を見下す。
「アタシに勝とうなんて100年早いのよ。」
なぜかハンナが倒したことになっているようだ。
まぁそれで退屈がまぎれるなら良いかと思い何も言わなかった。
ダンジョンの中を先へと進んでいくと、今度はブルオークの群れが現れた。
ブルオークはブタ顔のオークと異なり、猪の様な顔をしている。
どちらも似たような顔だがブルオークの方が野性的というか凛々しい感じだ。
能力値の合計はボブゴブリンより高く、単純な能力値の合計だけならランク1の中でもトップクラスだ。
素の力もボブゴブリンよりもずっと強く、ボブゴブリンの実際の力がゴブリンの4倍くらいだが、ブルオークは更に倍くらいの力がある。
生命力も高く多少の傷では怯みもしない。
そんな強力なブルオークだが弱点がある。
ブルオークの戦い方は猪のように突進で相手を押しつぶすというものである。
しかも、突進中は停止も方向転換もできない。
オークも知能は低かったがブルオークは更に知能が低いのだろう。
ブルオークはボブゴブリンと違い下位種を引き連れてという事は無いため、群れの数は少なめでだいたい5匹~10匹程度だ。
今回の群れは5匹のようだ。
数は少ないが群れのすべてがブルオークなので油断は禁物だ。
何も考えずに突進してくるブルオーク達を華麗に躱し、すれ違いざまにショートソードの一振りをその中の1匹の首筋に向けて放つ。
ブルオークは勢いを緩めることなく全速力で壁に激突するが、こちらまで振動が伝わるくらいの激突だったが当の本人たちは何もなかったかのようにこちらへと振り返る。
『頑強』のステータスが相当に高いのだろう。
ショートソードで首を切り裂いたブルオークも首から血を流してはいるが、致命傷にはなっていないようだ。
ボブゴブリンが相手なら1回で首を飛ばしていたのだが。
「なかなかやるわね。」
相変わらずハンナは強気だ。
再び俺に向けて突撃してくるブルオークに対してショートソードを構える。
ショートソードを握る手に力を籠めると刀身がオーラを纏う。
「スラッシュ!」
スキル名を叫びながら振るわれたショートソードはブルオークの左手鎖骨の位置から斜め下に切り裂いていく。
全身から力が抜けていくのを感じる。
俺が剣士になって得たスキル『スラッシュ』の効果だ。
剣による強力な一撃を食らわせる事が出来るが、体力の消耗が大きいためここぞという時の切り札だ。
スキルは本来使う程に習熟度が上がり一定以上でレベルが上がっていく。
レベルが上がるとスキルの効果が上昇したり、使用する際の体力の消耗などが軽減されたりする。
一定以上のレベルにまであがるとスキルが進化する事もあるらしい。
ただし、俺は「経験値取得率0%」の影響からかいくら使ってもスキルの習熟度を上げる事が出来ない。
1匹のブルオークが倒されたが残されたブルオークの戦意は全く衰える事はなく、再びこちらに突進してくる。
早く片付けたいという思いはあるが、毎回スラッシュを使って体力を消費するのも好ましくない。
俺はブルオークの突進を回避して、ブルオークが壁に激突しているところを後ろからショートソードを心臓の位置に突き刺す。
これは十分に致命傷となったようで、心臓を貫かれたブルオークは地面に倒れそのまま立ち上がる事は無かった。
「分厚い脂肪もこれなら貫けるようだな。」
「さぁ残りも片付けなさい!」
「あぁすぐに片付けるさ。」
ブルオークの攻略法が分かったので他のモンスターが現れる前に残りの3匹も仕留める。
「このペースだとアイテム袋の容量がいくらあっても足りないな。」
アイテム袋の中にブルオークの死体を収めていく。
ブルオークの肉はオークの肉よりは少し高いが、それでも買取価格はたかが知れている。
アイテム袋は所有者の魔力を吸収して容量を確保しているため、能力値の魔法が上がると自然と容量も増えていく。
大都市で入手可能な高価なアイテム袋だと魔力上昇による容量の増加が大きかったりするが、俺が持っているアイテム袋はあまり高価ではないのでの魔力1につき10kgの容量しか増加しない。
ブルオークがだいたい200kgくらいするので5匹で1tになる。オークはその半分くらいの重さだ。
仮に魔法の能力値が1000上昇しても10tでブルオークが50匹分しか増えない計算だ。
このペースでブルオークを狩り続ければすぐにいっぱいになってしまうだろう。
因みに、オークの肉は入りきらないのでアイテム袋には入れずに放置している。
まぁノービスの街では肉を加工して行商人に売っているので供給が需要を超えてしまい買取もしてもらえなくなるという事はないのがせめてもの救いか。
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