第六話 ダンジョン攻略

 ノービスの街の北の門を出て更に10分ほど進むとそこにはダンジョンの入り口がある。


『ノービスのダンジョン』と呼ばれ全7階層からなるここは成りたての冒険者が段階的に能力を磨くのに最も適したダンジョンである。


 その反面、収益性に乏しく稼げないダンジョンであるため、ある程度力を付けた冒険者はこの地を去り、より金の稼げるダンジョンへと向かっていく。


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 ノービスのダンジョン入り口には、結界が張られているため、入り口からモンスターが出てくるという事はない。


 ノービスの街周辺の森の中にはゴブリンやオークなどが出没しているが、それらは全てこの結界が張られる前にダンジョンからあふれ出たモンスターが自然繁殖したものだ。


「不思議ね」


 声のした方に視線を向けると、ドーム状の半透明な結界をハンナが興味深そうにペタペタと触っている。


「解除するから気を付けてね」


 冒険者ギルドの受付のお姉さんの説明によると台座に冒険者プレートをかざすと1分間だけ結界の内側へ通過する事が出来るようになるらしい。


 その間に通過すると結界に登録され自由に結界を通過できるようになるらしい。


 冒険者ギルドではどの冒険者プレートに登録された冒険者が結界内に残っているかを把握する事が可能で、2週間以上ダンジョンから出てこない冒険者がいる場合は捜索隊が派遣されるようになっている。


 因みに、捜索隊が派遣されるとその冒険者は生死を問わず100ゴルドの費用を払う必要がある。


 死んでいた場合は冒険者保険から支払われるが、生きていた場合は冒険者自身が支払いを行う必要があるためどの冒険者もギリギリまでダンジョンに潜ったりはしないそうだ。


 目立つように置かれた台座に冒険者プレートを置くと結界の色が薄くなる。


 すると、結界をペタペタと触っていたハンナの手が結界を通過していく。


「本当に不思議ね」


 結界の中と外を行ったり来たりしながら不思議そうな顔をしている。


「いつまでも入り口にいても仕方ないし、中に入るよ」


「ちょっと! アタシを置いていかないでよ」


 ダンジョンの入り口である裂け目へと入っていくとハンナも慌てて追いかけてくる。


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 ダンジョンの中にはいるとそこには洞窟のような空間が広がっている。


 道幅は俺の持つショートソードだけでなくロングスピアを振り回すのにも十分な広さがある。


 また、壁自体がうっすらと光を発しているため明かりが無くても問題なさそうだ。


 洞窟の中を移動していると入り口を見失うという事は往々にしてあるそうなので、入り口までのルートを示してくれる魔法が込められた羅針盤を冒険者ギルドで購入してきている。


 事前準備は十分にしてきた。


 俺は警戒しながらもダンジョンの先へと進んでいく。


 洞窟を進んでいくといくつもの分かれ道に遭遇したが、適当に進んでいく。


 数分毎にゴブリンやオークの群れが現れるが全て俺の能力値を上げるための糧になってもらう。


「退屈ね」


 洞窟の中なので代り映えのしない風景が続き、出てくるのも見慣れたゴブリンやオークのみでハンナは退屈しているようだ。


 更に進んでいくと今度はオークの群れが現れる。


 数は20匹となかなかに大きな群れのようだ。


 正面から群れに飛び込んでいきショートソードで無防備な首を斬り落とす。


 こちらの速さにまったく反応できていないようだ。


 それを見た他のオークは突然の状況に動揺しているのか棒立ちになっている。


 棒立ちになったオーク達を順々に斬っていく。


 群れのオークを倒し終え、軽く一息つく。


 ダンジョン内では敵に会う頻度が高いため、能力値は順調に上昇している。


 そのおかげか、20匹のオークを仕留め終わっても息が切れていない。


 肩に乗ったハンナも「シュッ、シュシュ」などと言いながらシャドーボクシングのようにパンチを繰り出している。


「ふぅ、大したことないわね」


 何かをやり遂げたような雰囲気を出しながら、ハンナは額の汗をぬぐう。


 もちろん、ハンナのシャドーボクシングによって繰り出されたパンチがゴブリンを倒したなどという事実はない。


「アタシの黄金の果実はどこ」


 ハンナがキョロキョロと当たりを見渡すが、もちろん黄金の果実どころか果物も落ちてはいない。


「果物はトレントっていう木のモンスターからしか落ちないし、黄金の果実はその中でも特別なエルダートレントでないと落とさないよ。トレントがでるようになるのはまだまだ先の階層だよ」


「えぇー。そんなぁ」


 ハンナがおちこんでしまったので空間袋にしまっていたみかんを渡してあげる。


「こんなもので騙されるほどアタシは簡単な女じゃないんだからね!」


 不機嫌そうに文句を言いながらもみかんの皮をむいてかぶりつくと途端に背中の羽をバタバタと羽ばたかせながらご機嫌になってしまう。


 ハンナがおやつタイムになったので俺も休憩をとる事にする。


「ステータスオープン」


 ############

 ステータス


 名前:ジーク

 年齢:12歳

 レベル:1

 職業:簒奪者


(能力値)

 筋力:357

 体力:327

 頑強:335

 敏捷:346

 魔法:311


(スキル)

 アクティブ:(Runk2)スラッシュ_Lv1

 パッシブ:(Runk-)簒奪

(加護)

 木妖精の加護(微弱)

   回復力上昇(微弱)

   呪い耐性(微弱)

   毒耐性(微弱)

   木属性付与

(呪い)

 経験値取得率0%、転職不可

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 ダンジョンに入ってから既に200近いモンスターを討伐したため、能力値はダンジョンに入る前の2倍以上になっている。


「経験値取得率0%」があるため、レベルが上がらないのは理解できるが、これだけ戦闘しているのに「スラッシュ」のレベルも上がっていない。


 通常スキルは使う程にレベルが上がり強力になっていくものだが、「経験値取得率0%」の効果でいくらスキルを使っても経験値は溜まらないという事なのだろう。


 ノービスのダンジョンは全7階層で構成されており、1階層2階層はランク1のモンスターしか出現しない。


 稀に、その階層のモンスターより強力な個体が現れる事があると言われているが、そういったイレギュラーは強力なモンスターのいるダンジョンや長い期間放置されたダンジョンなどで良く起こる現象で常に一定数の冒険者が狩りを行っているノービスのダンジョンではまず起こらないらしい。


 1階層ではゴブリンとオークが出現する。


 2階層ではそれに加えてゴブリンの上位種であるボブゴブリンやオークの上位種であるブルオークが出現する。


 そして3階層まで行くと更に上位のゴブリンジェネラルやジャイアントオークが出現するようになる。


 因みにゴブリンジェネラルやジャイアントオークはランク2にあたるモンスターであるがスキルは持っていない。


 つまり何が言いたいかと言うと、新しいスキルの取得やスキルのレベルアップは4階層まで行かないと進まないという事だ。


 早く先を進みたい...スキルを増やしたいという欲求を必死で押さえつける。


 焦って身の丈に合わない階層まで進めばその分危険は大きくなる。


 簒奪のスキルがあれば7階層を踏破するのもそう遠くないだろう。


 因みに、黄金の果実を落とすエルダートレントは7階層でしか出現しない。


 これをハンナに伝えると早く7階層まで行けとうるさく言われそうなので内緒にしている。


 いつまで隠し通せるかわからないが、ハンナは単純なのでしばらくはごまかせるだろう。


 アイテム袋からリンゴとレモンのミックスジュースを取り出し一口飲む。


 リンゴの甘さとレモンの酸味が疲労を吹き飛ばしてくれる。


「先に進もうか」


「ガンガン行くわよ!」



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