第五話 ノービスの街
数日間の旅の末に、ようやくノービスの街へと到着した。
ジークの故郷の村は魔物除けとして木製の柵に覆われていたが、ノービスの街は石を積んで作られた堅牢な防壁に囲われている。
これは都市としての規模の違いもあるが、ノービスの街がダンジョンに近いという事も影響している。
この世界にはダンジョンと呼ばれる場所が点在している。ダンジョンは入り口だけがこの世界とつながっており、その先は別の次元の空間となっている。
ダンジョン内では日々魔物が生まれ、魔物が増えすぎるとダンジョンから魔物が漏れ出す。
ダンジョンから漏れ出た魔物は自然繁殖を行いどんどんその数を増していく。
森の中で狩ったゴブリンやオークなどもルーツはこのノービスの街の近くにある『ノービスのダンジョン』から漏れた魔物であると言われている。
なぜモンスターの発生源であるダンジョンの近くに街があるかと言えば、それはダンジョンが危険なモンスターの発生源であると同時に価値ある資源の宝庫でもあるからである。
例えば......
「うまぁ、これうまぁ。これもうまぁ」
俺の肩に乗っているハンナが食べている『りんご飴』や『桃の蜂蜜漬け』の材料である果物や蜂蜜はノービスのダンジョンのモンスターから収穫できる。
収穫には危険が伴うが、そのために冒険者という職業があるのだ。
因みに俺が今食べているオーク串はオークの肉をブツ切りにして串に刺したものを甘辛いタレを付けて焼いたものだ。
多くの食料がダンジョンの魔物から賄われているこの世界ではあるが、小麦や米などは周辺の村で自作をしている。
「ゴクゴクゴク・・・これもうまぁ」
今度は喉が渇いたのかブドウジュースをがぶ飲みしている。
この世界の科学技術は元の世界で言うところの中世ヨーロッパと同じくらいだと思うが、モンスターという資源があるため、生活はかなり豊かである。
天命のおかげで肉体的には元の世界とは比較にならないほど強靭で、怪我や病気を治すスキルや魔法もあるため平均寿命も恐ろしく長い。
村にも100歳を超える老人が何人もいた。
「ジークは冒険者ギルドって場所にいって冒険者に成るの?」
お腹がいっぱいになったのか眠そうな顔をしたハンナがあまり興味無さそうな目をしながら尋ねてくる。
「ダンジョンの入り口はモンスターが出てこないように結界で遮断されていて、入るためには冒険者に成る必要があるんだよ」
「なんでダンジョンに入りたいの?」
「モンスターを狩って強くなるためにはダンジョンに行くのが効率が良いからね。ダンジョン内はモンスターの宝庫だし、奥まで行けば強いモンスターもいる。それにダンジョン内では運が良ければ宝箱から強力な装備や特殊なアイテムを手に入れる事ができるしね」
「ふーん」
「さっき食べていた果物や蜂蜜もダンジョンのモンスターから手に入ったものだよ。それに、ほとんど市場に出てくることはないけど、通常の果実よりもずーっと美味しい黄金の果実っていうのもノービスのダンジョンで稀に手に入るらしいね」
「もたもたしていないで、早く冒険者ギルドに行くわよ!」
黄金の果実の想像しているのか涎を垂れ流したハンナがバシバシと肩を叩いてくる。
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「ようこそノービスの冒険者ギルドへ」
冒険者ギルドの受付は眼鏡をかけた知的なお姉さんだった。
「冒険者登録をお願いします」
銀貨を1枚カウンターに置いて冒険者になりたい旨を伝える。
「では、こちらの紙に必要事項を記入してください」
渡された紙には「名前」「性別」「年齢」「特技」を記入する欄がある。
名前:ジーク
性別:男
年齢:12歳
特技:剣術
とだけ書くと肩に乗っているハンナが髪の毛を引っ張ってくる。
振り向くと『アタシの事もかけ』と言わんばかりの態度で睨んでくるので、仕方なく特技の欄に妖精の加護を追記するとハンナの表情が満足気になる。
「それでは冒険者の証である冒険者プレートをお渡しします。木製のプレートはFランクの冒険者の証で、ランクが上がるとプレートの素材が上質なものに変わります」
受付のお姉さんがプレートをカウンターに並べる。
左から『木』『石』『銅』『銀』『金』『ミスリル』でできたプレートだ。
「冒険者のランクはFから始まり最高位であるAまでの6つに分かれています。ランクは日々の冒険者の功績に応じて月に1回ギルド側で自動的に昇格・降格が行われます。これはギルドから冒険者への強さと信頼についての評価の指標となります」
プレートの説明を終えるとカウンターに置いたプレートをさっと回収する。
「冒険者のランクが上がると『優遇』『指名』『恩賞』と呼ばれる3つの恩恵を受ける事が可能になります。『優遇』は高いランクの冒険者に与えられる優遇処置の事です。オークションへの参加権や宿代の割引きなどがこれに当たります。『指名』は指名依頼の事で、ランクを指名して行われる依頼は報酬額が他の依頼よりも高額となります。『恩賞』は冒険者を引退した際の退職金の事を差します。高ランクであるほどに引退の際にに高額の退職金がギルドから支払われます」
「オークションは高ランクの冒険者で無ければ参加できないものなのでしょうか」
「高ランクの冒険者に必要な希少な装備やアイテムが出品されるようなオークションであっても多くは高額な参加費用を支払う事で参加する事が可能です。これは見学のみを目的として競りに参加しない方で席が埋まってしまう事を避けるための処置となります。高ランクの冒険者であればこの参加料金は減額または免除される事が多いです」
「わかりました。ありがとうございます」
既に肩に乗っているハンナが退屈そうな顔をしているので一旦話を打ち切る。
「この街に来るまでにゴブリンやオークを狩ってきたのですが、買取をお願いするにはどうすればいいですか」
「買取は裏口にある買取カウンターにてお願いします」
「はい。ありがとうございました」
受付のお姉さんに俺を言ってその場を後にする
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「買取をお願いしたいのですが」
ギルドの裏口の買取カウンターまで来ると、鍛え上げられた肉体を持つおじさんたちが忙しそうに作業をしている。
「見せてみろ」
一人がこちらに来て、空いているスペースを指さす。
アイテム袋からオークの死体とゴブリンから回収した装備品を取り出す。
「剣は50ブロン、槍は10ブロン、オークの魔石は15ブロンだ。オークの肉は1匹あたり最高で1シルバ、鮮度や損傷で値が下がる事がある。見た感じで古いものでも3日と言ったところか血抜きもしっかりされているので問題はなさそうだな」
スキンヘッドのおじさんが買取価格について丁寧に説明してくれる。
村からここまでの移動は4日を要したが、初日に狩ったオークは全て撒き餌か俺の食事として消費しているので、今あるものは全て3日以内に狩った物だ。
見た目だけで大量にあるオークの死体がいつ死んだものかを言い当てるとは職人と言うのは凄いものだ。俺には全く見分けがつかない。
「問題ない。全て買取をお願いする」
俺はアイテム袋に大量に詰め込まれていた狩りの成果を全て監禁してもらう。
因みに、この世界の通貨単位は『ブロン』『シルバ』『ゴルド』の3種あり、100ブロンで1シルバ、100シルバで1ゴルドとなっている。
そして1ブロンは銅貨1枚、1シルバは銀貨1枚、1ゴルドは金貨1枚となっている。
これは俺の感覚だが1ブロンがだいたい1円くらいの価値である。
可食部だけで数十kgあるオークの肉が100ブロンしかしない事から誤解してしまいそうになるが、この世界の食料品が元の世界に比べて必ずしも安いとは限らない。
オーク肉などのノービスのダンジョンで手に入るような素材は恐ろしく安いが、輸送や加工の費用は元の世界に比べてずっと高いため先ほど食べていたオーク串などは1本100ブロンする。
米や小麦もノービスのダンジョンで手に入れる事が出来ない為、元の世界に比べてかなり高価だ。
その為か俺の住んでいた村でもノービスの街でも主食はもっぱら芋である。
元日本人の俺としては米が恋しい。
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