第四話 魔界の王
ジークの住む村が襲われた日の前夜。
魔界の奥深くにある巨大な城の中の一室にある円卓を囲むように異形の者たちが集っていた。
最も上座に位置する一番奥の席に座るのは鱗に覆われた巨大な姿をした魔王ドラクル。
そしてドラクルを挟むようにして二人の魔元帥が座っている。
右に座るのは白衣白髪の老人姿の『ブラン』
左に座るのは漆黒の鎧を纏った『ノワール』
ブランの右側には四魔将の内の二人が座っている。
一つの身体に子供と美女と老人の三つの顔を持つ『ヘカテ』
金属の巨大な身体を持つ『アトラス』
ノワールの左には四魔将の一人であるマリオネットの様な姿をした『マリオン』が座っており、その隣は空席となっている。
ドラクルの対面に座る老婆は『ラプラス』
魔眼と呼ばれる特別なスキルを持つ魔族である。
「今年も全員そろったようだねぇ」
ラプラスが間延びした口調で呟くと円卓に座る他の者達の視線が入り口の扉の方へと向かう。
少しすると入り口の巨大なドアがゆっくりと開いていく。
開かれた入り口からは白い肌に赤い瞳の青年の姿をしたヴラドがゆっくりと部屋の中へと歩いてくる。
そして円卓の中の唯一空いていた自身の椅子に優雅に腰かけると周りの異形の者たちを一瞥した後に、懐から懐中時計を取り出しそちらに視線を移す。
「ヒヒヒ......あんたはいつも時間にだけは正確だねぇ」
「どうやら皆様も既にお揃いのようですね。お早いお着きで」
ラプラスがヴラドに嫌味をこぼすが気にした風もなく答える。
「始めよ」
ドラクルがラプラスに何かを促す。
「我らが王の命なるぞ」
それに追随するようにノワールがラプラスに命じる。
ラプラスは無言でうなずいた後に目の前に置かれた水晶に両手をかざす。
「うぅぅうぅぅうぅぅぅぅうぅぅぅぅぅううぅぅぅぅうぅぅぅうぅぅ......」
水晶から灰色の煙のようなものが沸き上がりラプラスを包み込む。
ラプラスは白眼をむきながら激しく痙攣する。
「婆様の占いはいつ見ても不気味だね」
「ワタシは嫌いじゃないけどね」
「静かにせんか。ラプラス様の先見のスキルの邪魔になるじゃろう」
ヘカテの三つの顔が言い合いを始める。
隣に座るアトラスが不快そうに無言で睨みつけると、ヘカテの子供の顔がそれに気づいて慌てて口を噤む。
「どうやらあまり良くない前兆だねぇ」
先見のスキルで何かが見えたのかラプラスは大きくため息をつき、数秒間を置いてから再び口を開く
「ヒヒヒ......500年前と同じだね。人間界にイレギュラーが生まれる兆しがみられるよ。禍の芽は早いうちに摘み取るべきだねぇ」
「魔王様いかがいたしましょうか」
ノワールがドラクルの方へ向き直り尋ねる。
円卓に座る全員の視線がそちらに向く。
「500年振りか......前回はなんといったか」
ドラクルが視線だけをラプラスの方に向け尋ねる。
「イーリスですじゃ。ヒヒヒ......人間たちは『勇者』なんて呼んでおりましたがねぇ」
「勇者イーリスか、その者はいかほどだったか」
「ヒヒヒ......人間の中では隔絶した強さを持っていたはずですじゃ。並みの魔族と比べても遜色がないくらいには強かったはずですじゃ。たしか、何人かの魔族を討っていたとか」
「所詮は魔界にて住処を追われた下級魔族だ」
ノワールがラプラスを睨みながらつぶやく。
「あの時は下級魔族が何人か死んだと記憶しています。魔界にて住処を追われた流民とはいえ人間界の者に殺されたとあって驚かされたものです」
二人のやり取りに対してブランが補足する。
「その程度だったか?」
「ヒヒヒ......イーリスは望んでこちらに進攻しよう考えるような者ではありませんでしたのじゃ。もし、そうでなければどれほどの魔族が討たれた事かねぇ」
「ふんっ。人間に討たれるなど魔族の恥さらしが」
「ノワールよ、そう怒るな。イーリスは間違いなく強かった。『人間にしては』ではあるがな」
興奮しているブランがノワールを諫める。
「人間界の小蠅に我が領を汚されるのもつまらぬな......殺せ」
「承知いたしました王よ。となれば誰に行ってもらうか」
ドラクルの命を受けノワールが円卓に座る四魔将達を見渡す。
しかし、四魔将達は示し合わせたかのようにそろってノワールから視線を逸らす。
誰もが人間界という魔界から遠く離れた場所まで行って、下等な人間を駆除するなどと言うつまらない雑務をやりたくないのであろう。
「ヒヒヒ......困った子供達だ。とはいえあまり時間は残されていないからねぇ......先見の力は一日しか持たない。明日になればそれがどこにいるのか知る事はできなくなるよ。次に先見が使えるのは1年後だよ」
ラプラスはため息を漏らし少し考えるそぶりを見せたあと、隣に座るヴラドへと視線を向ける。
「しかたがないね、ヴラドの坊やに行ってもらおうか」
「は? なぜ私が」
「坊やが一番若いからねぇ。怠惰は年寄りの特権さ、それに一度くらい人間界に行ってみるのもいい経験だ」
「はぁ、婆様のご指名とあっては断れませんか」
ヴラドは周りを見渡し味方が誰もいない事を確認するとしぶしぶと引き受ける。
「ヒヒヒ......場所は水晶が導いてくれる。『紅蓮』に乗っていけば何とか間に合うだろう」
「その点はお任せください。『時間に遅れる』という事は私の最も嫌いな事ですから」
ヴラドは優雅に礼をすると、漆黒のマントを靡かせてその場を立ち去っていく。
「さて心配ではあるけども、任せるしかないねぇ」
「ただ、下等な人間を狩るだけの事だろ」
ヘカテの子供の顔がラプラスの心配に疑問を投げかける。
「そんな単純なものではないのさ。何もなければいいのだけれどね」
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