第三話 妖精

 ジークの生まれ育った村から最寄りの街であるノービスの街への道中には大きな森がある。


 正確には、巨大な森の中にノービスの街やいくつもの村が存在している。


 そして、森の中には無数のモンスターが生息している。


 今も目の前にはゴブリンの群れがいる。


 まだこちらには気が付いていないようだが、数は5匹でそれぞれが粗末ではあるが武器を持っている。


 ゴブリンは単独では天命を授かる前の俺でも倒せる程度の相手だが、通常5匹~10匹程度の群れをなしている。


 不意をつかれると大人でも殺される事があるので油断はできない。


 剣を持つゴブリンが3匹、槍を持つゴブリンが1匹、弓を持つゴブリンが1匹


 こんな所で死ぬわけにはいかないので、父から教わったゴブリンを相手にする秘策を試す事にする。


 ゴブリンを見かけた場合は、まずは茂みの中などに隠れる。


 ゴブリンは五感が鈍いので、こちらから先に見つけた場合は隠れてやり過ごす事が可能である。


 とはいえ、モンスターとの戦闘を避けていてはいつまでたっても復讐は果たせないので、彼らには俺が強くなるための糧となってもらう必要がある。


 茂みに隠れている俺の前を通り過ぎたゴブリンが少し進んでいくとそこには俺が置いておいた干し肉やパンが現れる。


 ゴブリンは奪い合うように干し肉やパンにかぶりついていく。


 後ろから静かに近づいている俺に気づくこともなく。


 武器を地面に投げ捨て隙だらけのゴブリンを後ろからショートソードを全力で振り下ろす。


 1匹の首が飛び、身体から噴水の様には血が噴き出す。


 そして、頭の中にあの不思議な声が響く


〈簒奪のスキルが発動しました〉

 能力値が上昇しました。


 今はそれにかまっている余裕はないので声を無視して、突然の惨劇に混乱している残りのゴブリンに向かってショートソードを振るう。


 2匹目・3匹目と切り捨てると、残ったゴブリンが逃走をはかる。


 もちろんそれを見逃すわけもなく残りの2匹も背中から切り捨てあっという間に討伐完了である。


 あっという間の戦いであったが、気が付くと全身からは大量の汗が噴き出している。


 ショートソードを持つ手も震えている。


 命がけの戦いと言うのは思っていた以上に心身に負荷がかかるようだ。


 1匹殺すごとに力が増しているのが分かる。


 ############

 ステータス


 名前:ジーク

 年齢:12歳

 レベル:1

 職業:簒奪者


(能力値)

 筋力:160

 体力:118

 頑強:115

 敏捷:132

 魔法:105


(スキル)

 アクティブ:なし

 パッシブ:斬撃ダメージ増加:Lv1、簒奪Lv-


(呪い)

 経験値取得率0%、転職不可

 ############


 自分の持っているスキルについてはそれを取得したタイミングでどういったスキルであるか理解する事ができるため、簒奪のスキルがどういったものであるかは理解している。


『簒奪』のスキルは殺した相手の能力値とスキルの1%分だけ自身を強化できるスキルだ。


 しかもその効果は永続的に続くため、殺すほどに強くなることが可能だ。


 能力値が5~7上昇しているのはゴブリンのステータスが100~150程度だからだろう。

 スキルについては相手が持っていれば1%分だけ奪う事が可能だが、ゴブリンのような弱いモンスターはスキルは持っていないので今回は変化なしだ。


 撒き餌として使った干し肉とパンは既にゴブリンに食い散らかされてしまったが、村から持ってきたアイテム袋にはまだ十分な食料があるので同じ方法でまだまだ狩りが続けられそうだ。


 因みに、この『アイテム袋』は特殊な方法で作られた便利な袋で見た目よりずっと多くのものを収納する事が可能でしかもいくら入れても重さが変わらない。


 ただし、中身の劣化を防いでくれるような効果はないのでアイテム袋の中にあるからといって食料が日持ちするわけではない。


 ゴブリンの素材は体内にある極小の魔石と剣や槍に使用されている金属類だが、どれもたいして価値はない。


 剥ぎ取りに手間がかかる魔石は諦め、剣と槍だけをアイテム袋にしまっていく。


 ・


 ・


 ・


 街へと向かっていく間にも、同じような流れで狩りを繰り返していきだいぶ狩りに慣れてきたところ、突然どこかから女性の叫び声が聞こえてきた。


 叫び声のする方へと近づいていくと、そこには小さな妖精の女の子をわしづかみにしたオークの姿があった。


 オークはゴブリンよりも大柄で大人の男くらいの力があるが、武器を使う事が無いためゴブリンよりも狩りやすい獲物と言える。


 ゴブリンの肉は臭みが強く食用には向かないが、オークの肉は豚肉と同じような味で村でも良く食べられていた。


 ゴブリンと同じで知能は低いので、撒き餌を用意したら小石を投げてオークの注意を引き付ける。


 そして干し肉やパンに夢中になっているオークを後ろから切りつける。


 ゴブリンよりも多少身体能力が高いと言っても不意打ちの一撃で殺せないほどではない為、斬られたオークはそのまま倒れ伏す。


 オークはゴブリンと違って闘争心が旺盛で、仲間が不意打ちで殺された事に気が付いても怯む事無くこちらへと向かってくる。


 怒り狂うオークが襲い掛かってくるが、能力値が上がっているのとここに来るまでに何度も実戦経験を積んだ結果かさほど苦戦する事なく5匹のオークを仕留める。


「ありがどーございます」

 涙と鼻水を垂れ流しながら、妖精の女の子がお礼を言ってくる。


「とりあえず、顔を拭いた方が良いよ」

 あまりにも見られない顔の妖精にハンカチを渡すと、ゴシゴシと顔を拭き

 ズビーっと鼻をかむと次第に落ち着きを取り戻したようだ。


「お昼寝をしていたら、オークに見つかってしまって......あわや食べられてしまうところでした。助けていただいてありがとうございます」


「なんでこんなところにいたの? ここら辺はゴブリンやオークが多いし危険じゃないのかな」


「アタシは妖精王セフィロト様の命を受け、世界を旅しているのです!」


 妖精は小さい体で精いっぱい胸を張り自分を大きく見せようとしているかのようだが何とも言えない滑稽な感じだ。


 まるで小さな子供が虚勢を張って自分を大きく見せようとしているような雰囲気に少し微笑ましく思えてくる。


「ふーん」


 あまり興味はないが何か大事な役割を担っているようだ。


「アンタはなかなか見どころがあるみたいだから私の従者にしてあげるわ」


 頭の中に不思議な声が響く


 幼妖精 ハンナ から契約の提案

(契約内容)

 義務

  幼妖精(木) ハンナの保護

 対価

  木妖精の加護(微弱)

   回復力上昇(微弱)

   呪い耐性(微弱)

   毒耐性(微弱)

   木属性付与

   


「はん......な?」


 それは今は亡き幼馴染の名前と同じだった。


 偶然とはいえ運命的な物を感じずにはいられない。


「さぁ早く契約しなさい。アタシの加護は凄いんだから。アンタ幸せ者ね!」


「保護っていうのは具体的には何をすればいいんだ?」


「そうね、アタシは妖精王セフィロト様から授かった大事な任務があるから世界中を旅しないといけないのよ! でも今回みたいにモンスターに襲われるかもしれないからアンタがアタシを護るのよ」


「わかった、契約するよ」


 妖精ハンナとの契約が結ばれました。

〈契約者ジークに木妖精の加護(微弱)が付与されます。〉

『回復力上昇(微弱)』が付与されました。

 傷の治りが少し早くなります。

 体力の回復が少し早くなります。


『呪い耐性(微弱)』が付与されました。

 呪いに対してレジストする確率が微上昇します。

 呪いを受けた際の効果が少し軽減します。

 呪いに対する回復力が少し上昇します。


『毒耐性(微弱)』が付与されました。

 毒に対する耐性が少し上昇しました。

 毒によるデバフ効果を少し軽減します。

 解毒の速度が少し上昇します。


『木属性』が付与されました。

 木属性による攻撃が可能となります。

 木属性による防御が可能となります。


『木属性の特性』を得ました。

 自然回復力が上昇しましす。


「アタシみたいな凄い妖精と契約できるなんて、アンタ凄い幸運な事なんだからね! 感謝しなさいよ!」


「うん、よろしくハンナ」


 ハンナと同じ名前を持つ妖精と契約し、『世界を旅する』というハンナとの約束を代わりに果たす事になるとは......これもまた何かのめぐりあわせなのだろうか。








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