第二話 簒奪者
降臨祭も終わり部屋で寝ていると外からの騒音にたたき起こされた。
眠りについた矢先に急に騒音でたたき起こされるのは、あまりいい気分ではないが、村の大人たちが酒を飲んで騒いでいるんだろうと窓から外の様子を眺める。
すると、目に飛び込んできた思いもしなかったような惨状に息をのむ。
まず初めに目に入ったのは燃える家屋だ。
一つや二つではなく村中の家屋が燃えていた。
余りの動揺からか、村を我が物顔で闊歩する見た事もないような大型のモンスターによってそれが引き起こされた事に気づくまでに数秒の時間を要してしまった。
ジークの記憶にあるゴブリンやオークとは明らかに格が違う。
『
体長50mを超すような巨大な肉体を持つ
その中でも炎を纏った赤い鱗が特徴の
「無事だったのね」
息を切らせながらハンナが部屋に入ってくる。
外のモンスターと戦ったのだろうか、所々に服は破け血が滲んでいる。
「ハンナ、大丈夫なのか?」
「私は大丈夫よ。強いんだから。それに、ジークは私が守るって言ったでしょ」
それは何の前触れもなく現れた。
「こんな所にいたのか。ずいぶんと手間をかけさせてくれるな」
それは非常に美しい容姿をした青年であった。
不気味なほどに白い肌と煌めく赤い瞳のコントラストは神秘的とさえいえるだろう。
その整った美しい容姿を苛立ちからか少し歪ませて、彼は一歩、また一歩と近づいてくる。
「この私がこんな僻地にまで雑用をさせられるとはな。魔眼の婆様にも困ったものだ」
絶対的な死が少しづつこちらに近づいてきていた。
俺は2度目の死を前にして全身の震えを止める事が出来ないでいた。
「いずれ我らを脅かす存在が今日この村で生まれるから殺してこいとはな。私もそれなりに忙しい身の上だというのにこんな僻地にまで行かされるとは、貧乏くじを引かされたものだ」
500年前にイーリスが勇者と言われるようになったのは、人類を守った功績によるものと言われている。
イーリスが戦った相手にはドラゴンのような単体で国を滅ぼせるレベルの凶悪なモンスターもいたが、それ以上に脅威となる存在から人類を守ったという事が大きいと言われている。
それは神話にて語られる北の果てに棲むものたち......強力なモンスターを使役する力を持つ存在......
「我ら魔族を脅かす存在とは何かと思えば、たかだか『聖女』とはな。魔眼の婆様も大げさなものだ。魔王様を守護する四魔将の一人であるこのヴラド様が来るほどの事も無かったな」
ヴラドと名乗った魔族がつまらなそうにつぶやきながらゆっくりとこちらに近づいてくる。
魔族が棲む魔界は人類のいる世界に比べて遥かに魔素が濃く、魔素を取り込み強く成長する彼らにとって魔素の薄い人間界は枯れ果てた砂漠に等しいと言われている。
その為、彼らが人間界に来ることは稀である。
そうでなければ、人類ははるか昔に滅びているだろうと言われている。
「さて言い残す事はあるか?」
ヴラドがその真紅の瞳でハンナを見つめそして問う。その瞳からは何の感情も見いだせない。
「あぁ......また、死ぬのか」
俺が2度目の死を覚悟したその時にハンナが一瞬だけこちらに視線を向け、そして、微かに微笑む。
絶対的な死を前にしたこの状況に不釣り合いなハンナの微笑みに少しだけ困惑する。
「私が守る」
ハンナはヴラドを睨め付けると両手を合わせて祈りを捧げる。
するとまばゆい光がヴラドを包み込む。
「不浄を払う聖なる光か並みの魔族であれば多少のダメージは与えられたかもしれないな。だがこのヴラドが相手ではあまり意味をなさないな」
光の奔流が収まると、中から無傷のヴラドが悠然と近づいてくる。そして風を切るような音がしたかと思うと、数秒遅れてハンナの頭部が身体から転がり落ちる。
「その若さで『聖光』のスキルを使える所は人間にしてはなかなかやるようだが、相手が悪かったな」
最後に一言言い残し、ヴラドは去っていった。まるで俺の存在に気が付いていないかのように。
それがハンナの「聖域」のスキルによるものであったと気づいた頃には外のモンスターもどこかへと姿を消していた。
全てを失ってしまった。
また、何もない日々に戻るのか・・・
そう思っていると突然頭の中に不思議な声が響く
特殊ジョブ「簒奪者」の取得条件「何も持たぬ者」を満たしました。(23時間経過)
特殊ジョブ「簒奪者」の取得条件「満たされし者」を満たしました。(0時間経過)
特殊ジョブ「簒奪者」の取得条件「全てを失いし者」を満たしました。
特殊ジョブ「簒奪者」の取得条件「何も持たぬ者」「満たされし者」「全てを失いし者」の3つを24時間の間に達成を満たしました。
特殊ジョブ「簒奪者」の取得条件全て満たしたため特殊ジョブ「簒奪者」への転職資格が与えられました。
30分経過後に取得条件「何も持たぬ者」が失効されます。所得条件の一部が失効した場合「簒奪者」への転職資格が失われます。
「簒奪者」に転職しますか?
全てを失った者だけがなる事が可能なジョブが簒奪者とは皮肉なものだと思う。
失ったものはもう取り戻せないというのに。
俺は魔族に怯える事しかできなかった。ただ死ぬのが怖かった。
だが、ハンナは自身の命を犠牲にしてまで俺を守ってくれた。
ハンナを取り返すことは出来なくても、ハンナを奪った奴らへ復讐する事は出来るかもしれない。
俺は一言「転職する」と答える。
すると再び頭の中に声が響く。
転職の意思を確認しました。
対象「ジーク」は特殊ジョブ「簒奪者」へ転職します。
対象「ジーク」は固有スキル「簒奪者」を取得しました。
対象「ジーク」は呪い「経験値取得率0%」を取得しました。
対象「ジーク」は経験値を取得する事が出来なくなります。
対象「ジーク」は呪い「転職不可」を取得しました。
対象「ジーク」は他の職業へ転職する事が出来なくなります。
############
ステータス
名前:ジーク
年齢:12歳
レベル:1
職業:簒奪者
(能力値)
筋力:155
体力:112
頑強:110
敏捷:125
魔法:100
(スキル)
アクティブ:(Runk2)スラッシュ_Lv1
パッシブ:(Runk-)簒奪
(呪い)
経験値取得率0%、転職不可
############
色々と確認する必要がある事は多いが、まずは村のみんなを弔わないといけない。
この世界では死体を放置すればアンデットになってしまう。
村のみんなやハンナをアンデットにするわけにはいかない。
俺は一日かけて村のみんなの亡骸を集め火葬した。
村の子供たちもみんな死んでしまった。
生き残った人間はいないだろう。
更に1日かけて簡素な墓を建てたら、墓の前で再びみんなの仇を討つ事を誓う。
次にここに戻ってくるのは俺がヴラドを殺した後だ。
村の鍛冶屋からショートソードと魔物の皮で作られた丈夫な防具を拝借する。
馬車で1日の距離にある近くの街まで行く道にはゴブリンやオークなどのモンスターが徘徊しているので戦う為の装備が必要だからだ。
そして、村中からお金をかき集める。
冒険者として安定した収入が得られるようになるまでの生活費には十分だろう。
俺は復讐を誓い、村を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます