復讐のジーク〈全てを奪われた俺が『簒奪』スキルで最強になって復讐する!〉
クロネコ騎士
第一話 天命
窓の外は凄まじい轟音が轟く吹雪でみんな温かい家の中に引きこもっている。
俺はと言えば電気の止められた部屋は外よりは少しマシとはいえ凄まじい寒さで、家にある薄い布団に包まり、数枚の安物の服を重ね着したうえにタオルを巻くことで何とか寒さをしのいでいた。
栄養の足りない身体は熱を発する事を諦めたのか、徐々に体温が低下していく。
心配して訪ねてきてくれるような相手はいない。
「あぁ、死ぬのか」
誰に言うともなくつぶやく。
俺が施設に拾われたのもこんな吹雪の夜だったらしい。
コンビニのビニール袋に入れられて施設の入り口付近に捨てられていたらしい。
たまたま赤ん坊の泣き声に気づいた施設の職員に保護されたため死ぬことは無かったが、あと少し発見が遅れていたら死んでいただろう。
施設にはいろんな事情で捨てられた子供がいるが、コンビニのビニール袋に入れて捨てられた子供は俺くらいだろう。
もはや親が誰であるかを調べる気にもなれない。
俺がいた施設は「桜の園」という名前で、国の支援で成り立っていた。
そこで働く職員の給与はお世辞にも十分とは言えず、そのためか職員も自分が生きていくのに精いっぱいで子供達に愛情を注ぐほどの余裕はないといった感じだった。
笑顔はなくいつも疲れた表情をしていたのが印象的だ。
そんな中で育った子供達の間にもふさぎ込んだような重たい空気がまとわりついていた。
俺もまた愛情というものを知る事なく施設で育ち、そして18歳になったと同時に施設を追い出された。
別に俺が何か悪さをしたとかではなく、18歳を過ぎると独立するルールとなっているのだ。
18歳までは保護している子供の数に応じて国から助成金が出るが、それ以降は助成金がでないため養うだけのお金がないのだろう。
俺は園長から紹介された家賃が安いだけが取り柄のボロアパートを借り、重労働だが賃金の安い仕事をしながらなんとか飢えを凌いでいた。
しかし、運悪く足を怪我してしまい十分な金を稼ぐ事ができなくなってしまったところから一気に転落が始まり、食費や光熱費を払うお金も底をつき、電気やガスは止められてしまった。
そして、俺は死んだ。
そんな俺を不憫に思った神様の計らいだったのだろうか・・・再び目を覚ますとそこは異世界だった。
そして俺はジークとして新しい人生を歩むことになったのだ。
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ジーク 12歳
性別 男
田舎にある小さな村の村長の一人息子
将来は冒険者になって世界を旅するのが夢
幼馴染のハンナとは同じ年
目が覚めると、俺の頭の中にゆっくりとジークの記憶が流れ込んでくる。
家族・友人に恵まれ愛情を感じながら育ったジークの人生は、前世の俺とは真逆のと言ってもいいだろう。
俺の心が前世では感じる事の出来なかった温かさに包まれていく。
これが愛なのかと、俺は初めて理解した。
何もない人生であった俺に神様が慈悲を与えてくれたのかもしれない。
俺はジークとして新しい人生を歩んでいく事を心に決めた。
「まだ寝てるの?もう降臨祭が始まってるわよ!」
部屋の扉が開き、ジークの幼馴染のハンナが元気よく入ってくる
今日は1年に一度の降臨祭と言うお祭りで、殆どの子供たちにとっては広場で御馳走が食べられる日と言う認識であるが、12歳の少年少女にとってはそれとは別に特別な意味がある日だ。
「起きてるよ、ハンナ」
ベッドから立ち上がりハンナの方に顔を向ける。
ショートカットの髪はブロンズ色で瞳は透き通るような青い色、西洋風の美しい顔立ちをしている。
ジーク自身は前世の俺と同じ黒髪黒目をしているが、村には他にも銀髪や赤髪など色々な髪や瞳の色の住人が暮らしている。
この世界の髪の色や瞳の色は遺伝とは別のロジックによって決まっているようだ。
「早く着替えて!広場に行くわよ!」
ハンナから急かされたという事もあって手早く寝巻から外行きの服装に着替えていく。
今日は一年の始まりであり、この世界では『降臨祭』と呼ばれているお祭りが開かれる日だ。
降臨祭の日には神様が地上に降りてきて、12歳の少年少女に天命を授けてくれると言われている。
天命とはゲームで言うところの『ステータス』に当たるもので「レベル」「職業」「能力値」「スキル」などの要素から構成されている。
前世ではゲームをする余裕は無かったので、俺はこのステータスというものに何となくワクワクしている。
この村では天命を得た日から一人前と認められ、村の外でゴブリンやオークなどのモンスター狩りへの参加が認められるようになる。
天命を得た後にモンスターを殺すと「経験値」を獲得するようになり、経験値を溜めていくと、レベルが上がり能力値の上昇やスキルの獲得などができるらしい。
レベルを上げて強くなれば、より強力なモンスターを狩る事が可能になる。
才能や努力それに運も必要となるが、いずれはジークの夢である『ドラゴンスレイヤー』になる事も不可能ではない。
12歳の少年少女にとっては『降臨祭』はそういった夢を抱きながら天命を授かる事が出来る特別な日なのである。
全ての少年少女は降臨祭の日の正午に天命を授かると言われている。
そのタイミングでどこにいても問題なく天命を授かる事が可能ではあるが、村では12歳の少年少女は教会に集まる決まりになっている。
今はまだ朝の9時なので時間的にはまだだいぶ余裕がある。
「朝ごはんは広場で食べましょう。マーレーさんがパンを焼いているみたいだから、蜂蜜たっぷりの蜂蜜パンが熱いうちに食べに行きましょ」
ハンナに手を引かれるようにして二人で広場へと向かうと、広場では見知った友人たちが何人か来ており、御馳走を食べながら天命についての話で盛り上がっていた。
「ボクは勇者イーリス様みたいに魔王を倒して王女様と結婚するんだ!」
5歳くらいの少年が目を輝かせながら夢を語っている。
勇者イーリスとはこの国の英雄の名前で、深淵の底にあると言われる魔界の住人による侵略を幾度となく退けた伝説は絵本にもなっている。
「ジークも昔はあんな感じで『ボクは竜に乗って世界を旅したいんだ。』って言ってたよね」
「そのためにはまずは冒険者にならないとね」
「ジークは頼りないところがあるから、ワタシも一緒に冒険者に成ってあげる」
「そうだね。ハンナとなら楽しい冒険ができると思うよ」
ゴーン......ゴーン......
「時間になったみたいね」
お昼を告げる鐘の音が響いて来たところで教会へと移動する。
教会は村でも一番大きな建物で、親を失った孤児のための孤児院を兼ねている。
前世の施設とは違い、孤児の子供たちの表情は明るい。
この世界ではモンスターが当たり前のように村の周辺に生息しており、モンスターにより死傷者ができる事は珍しい事ではない。
昨日まで元気だった人がモンスターに襲われ命を落とす、なんてことは別に珍しい事ではない。
そんな世界で親を失い孤児となった子供たちが明るく笑顔を浮かべられるのは、孤児院を運営している神父様たちのおかげなのだろう。
俺のいた桜の園との違いに羨ましい気持ちになる。
だが、今はジークとしての人生がある。
もう一度やり直す機会が与えられたのだから、過去をの事を嘆くのはやめよう。
神父様のお話を聞いていると自分の中で力を目覚めるような不思議な感覚が広がっていく。
周りの同じ年の子供たちも同じようにそわそわしている。
「どうやら皆さんも天命を授かったようですね。『ステータスオープン』と唱えると授かった天命を確認する事が出来ますので早速確認してみてください。
神父様に促されるままに「ステータスオープン」と唱えてみる。
すると目の前にステータスが表示される。
############
ステータス
名前:ジーク
年齢:12歳
レベル:1
職業:剣士
(能力値)
筋力:155
体力:112
頑強:110
敏捷:125
魔法:100
(スキル)
アクティブ:(Runk2)スラッシュ_Lv1
パッシブ:なし
############
得られた職業は剣士
この世界では戦士・剣士・闘士・弓士・魔術士・法術士の6つの職業を総称して基本六職と呼んでいる。
この世界の住人の半分は12歳で天命を授かる際にこの基本六職のどれかになると言われている。
剣士はその中でも剣や槍などの刃のある武器での戦闘に秀でた職業だ。
能力値は筋力が155と高く、魔力は23と低い
剣士と弓士は筋力が高いのが特徴でモンスターを攻撃する担当であるアタッカーに向いていると言われている。
戦士や闘士は体力や頑強などの耐久力に優れているためモンスターからの攻撃から仲間を守る役割であるタンクに向いていると言われている。
魔術士や法術士は魔法が高く魔術や法術などを使う事が出来る。
レアな職業ではないためジークにとっては不本意だろうが俺は満足している。
普通であることがどれほど恵まれた事であるかを痛いほど知っているからだ。
因みに、この世界での能力値は「他の人の能力値と比較して高ければ優れている」という性質のものではなく、ステータスの値に比例して自身の肉体が強化されるというイメージらしい。
100という数値は天命を授かる前の強さと等しく、200であればその2倍になる。
また筋トレなどで身体を鍛えても筋力の能力値は上がらないが、鍛えた分だけ素の力が増すので実際の力は強くなる。
計算式としては「素の筋力×能力値の筋力=力の強さ」となる。
「ねえ、どうだった?」
ステータスを眺めながら色々と思案しているとハンナが声をかけてくる。
その声は少し心配しているような響きを含んでいる。
「ステータスを見てただけだよ。剣士だって」
「もしかして、ステータスが普通だったから落ち込んでるの? ジークには私がついてるから大丈夫だよ!」
俺を元気づけるためにかハンナは力強い笑顔を浮かべる。
そして両手を前方にかざし「聖域!」と唱えると、ハンナの前方にあった椅子とテーブルがまるで初めから何もなかったかのように消失する。
俺の驚いた顔を見て満足したのか「解除」と唱えると、消えていた椅子とテーブルがそこに現れる。
「聖域を展開するスキルで聖域の中はあるものは外から認識できなくなるし触れる事もできないのよ」
聖域のスキルは法術の一種であると思うが、明らかに法術士が用いる事ができるスキルのレベルを逸脱している。
「これは凄いですね。聖域のスキルは職業名に『聖』が付く聖職者の系統の職業固有のスキルと聞いたことがあります。勇者イーリス様と共に戦った『聖導士』ゾード様や現役では十傑の一人に数えられる『聖騎士』アルベルト様などがそれにあたりますが、非常に希少で有用な職業です」
神父様がまるで我が事の様に喜ばしそうな表情で聖域のスキルについて説明してくれる。
「はい。『聖女』の職業を授かりました」
「それは素晴らしいですね。天命は神から与えられた役割を全うする為に授かるものと言われています。優れた天命を授かるという事はそれだけ大変な役割を全うする必要があるという事です。与えられた能力に胡坐をかく事無く努力してください」
「はい」
「それから、基本六職の一つである剣士はありふれた職業ではありますが、勇者イーリス様も最初は基本六職の一つである『戦士』の職業を授かったと言われています。ですので基本六職であっても悲観する必要はありませんよ」
「はい」
ハンナと共に冒険者となって名をはせる、それもまた悪くないかなと思えてくる。
前世では得る事が出来なかった全てがここにあると思っていた。
この時はまだ
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