第11話 次回作にご期待を!

研究室で頭を悩ませていると、カルティアが現れた。


「ジークちゃぁん、調子はどう?」

「カルティア様」


カルティアは楽しそうに見物している。この真意を見せないミステリアスな表情が時に怖い。


「私はこれでもジークちゃんに期待してるのよぉ?」

「はは。ありがとうございます。でも企画会議はかなり批判されちゃいましたよ」

「そうねえ。私は美少年キメラ良いと思ったけど?」


カルティアからの評判も良いとなると、やはり女性ウケするらしい。


「俺は変態の汚名返上したいだけなんですけどね」

「ふふふ。それで女性ウケする美少年にしたのね。ジークちゃんってば相変わらず女性に嫌われてるのねえ」

「最近はアルギュロスも冷たいです」


ジークにとって一番深刻な問題である。思い出しただけでひどく落ち込んでしまう。ジークは深いため息をついた。


「アルギュロスちゃん?彼女なら元気に鍛錬しているじゃない」

「それはよかったです。最近、アルギュロスは俺を汚物を見るような目で見てくるので全然話してなくて」


思い出したら目頭が熱くなってきた。世のお父さん達は娘の反抗期をどう乗り越えているのだろうか。是非とも酒を飲み交わしながら教えてほしいものである。

 しかしカルティアはあまり興味なさそうに相槌を打った。


「あらあら」

「本当なんで俺って女性に嫌われるんでしょうね」

「まるで呪われてるみたいよね」

「はは。確かにその通りですね」


ジークは自嘲気味に笑って見せた。けれどそんなジークをカルティアは真顔で見つめたきた。本心のわからない笑顔も怖いが、それ以上に今のカルティアは怖い。


「ねぇジークちゃん。あなたのアイデアとっても素敵だと思うわ。でもねぇ本当に情報収集のためだけにあのキメラを考えたの?」


ジークは鳥肌が立った。カルティアはきっとジークの企みに気がついている。今回は上手くプレゼンできたと思っていたが、どうやら甘かったようである。


「当然じゃないですか。好感度を上げたいんですよ。冤罪はもう御免なんです」


ジークはいつもの調子で答えた。ここで対応を誤れば確実にまずい。


「そぅなのね。ジークちゃんも大変ねぇ」


カルティアは真意を見せない笑顔に戻った。まるでジークの反応を試しているかのようなやり取りに、ジークはため息をつきたくなった。

 いや。気が付いた上でジークの反応を楽しんでいるだけかもしれない。


ーーあーあ。絶対怪しんでるな。さすが魔王軍幹部。


ジークは平静を装いつつも、驚くほど鼓動が速く鳴っていた。少しでも落ち着けようとするが、カルティアの笑顔に見られている限り、鼓動は速まるぼかりである。


「私、ジークちゃんは必ず私の期待に応えてくれるって信じてるから」


カルティアは楽しそうに笑いながら去っていった。その後ろ姿を見送りながら、ジークはさてどうしたものかと頭を抱えた。

 きっとジークがどんなに成功をおさめても、カルティアは疑い続けるだろう。それならばカルティアの前ではボロを出さなければいいだけの話だ。

 ジークはそう捉える事にした。

 そうして気合いを入れ直していた時、再び研究室の扉が開かれた。


「ジークさぁあぁん」


カルティアと入れ替わりでシシリアがジークのもとへやってきた。べしょべしょに涙を流しながら、資料をぐしゃぐしゃになるほど抱きしめている。


「どど、ど、どうしたシシリア君」

「だってぇ」


いつもは明るく元気でジークにツッコミを入れるシシリアの弱った姿に、ジークは体をこわばらせた。やはり、泣いている女性にはどうにも弱い。心配する声かけさえもぎこちなくなってしまった。

 けれどシシリアもそれどころではなかった。止めどなく流れてくる涙を拭って、潤んだ瞳でジークを見つめた。


「企画、失敗しちゃいましたぁ。すみませぇん。私が少年型なんて提案しちゃったからぁー!」


そう言ってまたもやぼろぼろと涙を流し始めた。シシリアが何故泣いているのか不思議だったが、まさかそんな理由だとは思いもしなかった。

 この件については、ジークの思惑も関わっているのでシシリアは巻き込まれたようなものである。しかし真面目で優しいシシリアらしい理由でもあった。

 ジークは思わず笑みをこぼした。


「シシリア君。気にする必要はない」


カルティアの疑いを逸らすためにも、シシリアのためにも、ジークがする事と言えば一つだ。

 それが、キメラを作る事。

 ジークの目指すキメラとシシリアの目指すキメラは全く異なるものに違いない。

 それでも彼女が仕事にひたむきで、真摯にキメラ造りに向き合うのならば、それはジークと何も変わらない。

 泣きながらもまっすぐなシシリアの瞳に、ジークは肩の荷が降りたような気持ちになった。

 ジークは優しくシシリアの頭を撫でて慰めた。


「シシリア君。人間は多くの失敗を積み重ねて進化してきた。キメラ開発だってそれと同じだ」

「同じ?」

「そうだとも。失敗を悔いても仕方ない。いや、失敗は悔いる必要がない。失敗してこそ進化に繋がるのだからな。その先にあるもののためならば、いくらだって恥をかくし、失敗もする。失敗は負けではない。次のステップに進むための問題提起なのだよ」


これは、ジーク自身にも向けた決意表明だ。

 問題は山積みだ。

 けれどそれを承知でここに転職したのだ。目指すものは決まっている。ならばそれに向かって進むだけだ。

 ジークの言葉にシシリアは瞳を輝かせた。そして懸命に涙を拭って、ジークに笑顔を見せた。シシリアの笑顔を見たジークは不敵な笑みを浮かべた。


「さあ、次に進もう!」

「はい!」


 二人は再び資料と睨み合い、議論を重ねていく。

 それぞれの夢のため、目指すもののために、例え歩みを止めても、必ず前を向く。そして少し休んだら、また歩き始める。


 これは、よくある社会人の物語。

 失敗や後悔を重ね、その度に前を向く、戦士のように気高く逞しい者たちの物語である。



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勇者パーティーをクビにされたので、魔王軍のキメラ開発部局に転職しました。 友斗さと @tomotosato

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