第10話 紛糾する会議
ジークとシシリアの攻防は数日に渡って続いた。
清々しい朝日が眩しい中、一つの資料を握りしめ、二人はやり切った表情をしていた。
「出来た」
「出来ましたね」
今日はいよいよ企画会議。この資料に込めた思いを胸に、ジークとシシリアは互いに目を合わせて頷き合った。
「よし行くぞ、シシリア君!」
「はい!」
「いざ!企画会議へ!」
全ては勇者に殺されないけど魔王軍が弱体化するようなキメラ作りのため。
ジークはその一歩を踏み出したのだった。
◆◆◆
企画会議は想像以上に白熱したものであった。皆なかなかに良いアイディアを熱意を込めて発表している。その気迫から、開発部局のやる気がとても伝わってくる。
「皆さん凄いですね」
「ああ。どれも本当に強そうだ」
騎士、魔法使い、武闘家……どれを取っても強そうである。こんな強力なキメラを勇者に向かわせたらと思うと、ジークは心配で堪らなかった。
「ジークさん!次ですよ」
緊張しまくっているシシリアが急かすようにジークの腕を引っ張った。確かに順番は次だがそこまで急がなくても、と思いつつ、ジークはプレゼンの準備に入った。
ーー魔王軍の弱体化になり、なおかつ殺されないくらいには強いキメラか。
ジークはニヤリと笑った。
ーーやってやろうじゃないか。
難しいことは百も承知。それでも自分が追い求める理想のために、前に進む以外に道はない。
前の人のプレゼンが終わり、いよいよジークの番がやってきた。
ジークはその一歩を踏み出し、みんなの期待のこもった視線が集まる壇上へと登っていった。
ジークが登場し、会場は妙な緊張感に包まれた。キメラを成功させたジークの次なる案に誰もが注目している。
ジークは大きく息を吸い込み、口を開いた。
「今回のキメラのコンセプトは情報収集特化型キメラだ」
そう言って画面に統計図を映し出した。
「これは情報があった時となかった時の魔王軍の勝率だ。情報がある方が有利に働くことは一目瞭然だと思う」
統計図を見て、会場の皆が頷いた。その様子にジークも手応えを感じた。
「しかし、我が魔王軍には情報収集部隊が存在しない。これは由々しき事態である」
ジークはダン、と大袈裟に机を叩いて見せた。
「我が魔王軍に足りないものはなにか!それは情報だ!情報を制するものは戦を制する。そこで情報収集専門のキメラを大量に制作する事で情報収集を容易にして有利に動くのだ。そこで提案するのがこのキメラだ!」
そう言って、パッと画面を変えた。
そこにはシシリアの好みが詰まった少年キメラの姿が映し出された。
この画像に、会場は動揺を隠せなかった。
「コンセプトは『お姉様方に人気の美少年!情報収集キメラ』だ!」
「バッカやろう!」
「え?」
怒号が飛び、ジークは目を瞬いた。
先程まですごい良い反応を示していたはずなのに、今や会場中が落胆の色を見せている。がっかりしたような表情や、中には逆上しているような表情を見せている者もいる。
ジークは勿論、シシリアにも何が起こっているのかわからなかった。
「ジーク、勘違いするなよ。俺たちがお前に求めてるのはこんなものじゃない。お前がこの流れで作るべきキメラはなぁ!」
一人が立ち上がり、主張を始めた。ジークは大人しく彼の言葉に耳を傾けた。
彼は大きく目を見開き、大声で叫んだ。
「スレンダーな美尻美脚くノ一キメラだろうがぁ!!」
シシリアは愕然とした。空いた口が塞がらないとはまさにこの事である。
「そうだぞ!ジーク!」
「失望した!お前ならもっとやれるだろうがよぉ!」
一人の言葉に呼応するように次々と立ち上がっていく。そして皆口を揃えて「それじゃない」と言う。
その後の会議は荒れに荒れた。
男性たちがジークの企画に求めていたのは変態の本領を発揮したキメラだった。アルギュロスの件があるからだろう。
なのに男型を提案してきたのだから紛糾した。
あまりの紛糾ぶりに会議は一時中断。
ジークはもう一つ案を作ってくるようにと課題を出され、企画会議は幕を閉じたのだった。
ーーみんな、俺に何を求めているんだ?
ジークには不思議でたまらなかった。
変態を封印しようとすると男性から非難を受け、いつも通りすると女性から嫌われる。どちらに転んでも嫌われる。
なんと不運な身の上だろう。
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