第9話 企画会議に向けて


 最近、アルギュロスは鍛錬場で毎日訓練に励んでいるらしい。しかしどうもその中で魔王軍の女性達からジークの悪口を吹き込まれているようで、最近のアルギュロスはジークに対してちょっと態度が冷たい。

 ジークは娘の反抗期だとメソメソ嘆いていた。

 またもや電気を付けずに、薄暗い部屋の中でさめざめと泣く声が、気味悪く響いている。


「ちょっとジークさん!次のキメラ開発しましょうよ!」

「シシリア君……俺は今、娘の反抗期という問題に直面しているのだよ」


ジークにとっての火急の重要課題だ。心が辛すぎて、何も手につかない。


「いや。ジークさん。アルギュロスさんは娘じゃないじゃないですか。安心してくださいよ。赤の他人の女性はみんなジークさんに対して反抗期ですよ」

「…………じゃあ今度は反抗期の来ないキメラ作る」

「男型のキメラってことですか?」


シシリアがテキパキとジークの周りを片付けて、キメラ開発の企画会議の準備を始めていた。

 このキメラ開発部局はアルギュロスという成功例のおかげで魔王軍の中でも一目置かれる部署となった。今まではとにかく成功するために職員が各々研究に研究を重ねてきた。

 しかし、ジークが成功への道筋を作った事で、次なるキメラに注目が集まっている状況なのだ。

 そこで妙なキメラを作るわけにはいかないと、今度は部局全員が一丸となってキメラ制作に取り組むことになったのだ。

 そのための企画会議が開催される事になったのだ。

 当然ながら開発部局の中でもジークは一目置かれている。初めて戦闘キメラの制作に成功したのだから当然だ。

 そのジークがこの有様ではなんとも示しがつかないという事で、シシリアは先輩たちからジークがやる気になれるようサポートするように命じられていた。


「男型か……。女性受けするキメラ作ったら、女性の評価は変わるだろうか」


シシリアは想像してみた。しかし、どんなに考えてもジークの評判が上がる未来が想像出来ない。


「キット、変ワリマスよ」

「シシリア君は嘘が下手だね」

「もう!そんな事はいいんですよ。男型キメラですね、いいじゃないんですか?」


ジークは考えた。男型のキメラだとどうしても女型よりも力が強くなってしまいそうだ。弱体化したいのにこれではアルギュロスの二の舞になってしまう。

 そこそこ弱いけど、勇者に殺されないくらいには強いキメラを作らなくては。ジークは頭を悩ませて、一つの答えに辿り着いた。


「よし。小さな男の子にしよう」

「え!?少年型キメラですか?」

「小柄な方が小回りがきくし相手も油断するだろう」

「成程。それは良いですね」


シシリアはジークが言ったことをメモしていく。このメモをもとにジークに企画書を作ってもらうつもりなのだ。資料を揃えておけば、いくら傷心のジークでもやってくれるだろう。


「今度の企画会議ではこの案でいきましょう!実績のあるジークさんの案なら皆納得してくれると思いますよ」

「企画会議か……。そういえばいつだったかな?」

「一週間後ですよ」

「そうか」


確かにこのままではとんでもなく強いキメラが生み出されてしまう。ジークはそれを阻止するためにもこの少年型キメラ案を何としても通さなければと、思い至った。

 ジークはゆっくりと立ち上がった。


ーーそうだ。


「ジークさん?どうしました?」


突然立ち上がったジークに、シシリアはキョトンとした。


ーー戦闘させなければいいのか。


「やるぞ!シシリア君!少年型キメラの制作!」

「えぇ!?は、はい!」

「今回のキメラは情報収集特化型だ!まずはシシリア君の好みの少年像を教えてくれたまえ!」

「ええ!?」


シシリアはギョッとして資料を床に落としてしまった。


「そそそそ、それって、見た目の話ですか?」

「ふむ。情報収集型なら見た目は大事だからな。人好きする方が情報収集しやすいだろうしな。ぜひ参考にさせてくれ」


シシリアは床に散らばった資料を拾いながら、なんと答えたら良いのか戸惑っていた。


「そうですねぇ……えっと私は黒髪黒目の男の子なんて可愛いな、て思います」


ちなみにジークも黒髪黒目である。シシリアはチラチラとジークを見ながらそう言った。


「黒髪黒目か。他には?」


しかしジークはそんなシシリアの熱い視線に気がつかない。


「その……ちょっと自信過剰というか、そういう自信に満ち溢れた態度とか、何だか惹かれます」

「自信過剰か。堂々としたところが頼り甲斐があると言うヤツかな」

「そんなところです!」


ちょっとズレた気もするが、そういう事にしておいた。


「よし!ではこれで行こう!コンセプトはシシリア君好みの美少年キメラだ!」


ジークの発言にシシリアは再び資料を床に落とした。


「えぇっ!?ちょっと待って下さい!そのコンセプトはやめましょう!」

「む?ダメか?」

「ダメですよ!これじゃまるで私が少年好きみたいじゃないですか!」


冗談じゃない、とシシリアは頬を膨らませて怒っていた。ジークは腕を組んで頭を捻った。


「俺の好みだと周囲はすぐ反対して変態だな何だのというからな。シシリア君の名前を出したら少しは印象良くなるかと思ったのだが」


それは確かにそうかもしれない。しかしもしバレた時にシシリアまで変態の片棒を担ぐのは勘弁してほしい。


「いや。もうコンセプトの傾向がジークさんらしさが出てて、すぐ気付かれますよ」

「何!?いやこれは俺とシシリア君の合同案ではないか!」

「えぇ!?私はただのサポートで、案はジークさんの物です!私は無罪です!」

「無罪って酷くない!?俺の案が犯罪みたいな言い方!」

「変態が隠れてないのでギリギリ犯罪じゃないですか!」

「俺、害のない変態じゃん!」


二人はぎゃあぎゃあと話し合いながら企画書を作成していったのだった。



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