第7話 女の本気
「アンディー、どいてください」
「え?」
「ここはあたいらがヤルさ」
「え?え?ちょ?」
この世の全てを憎んでいるかのような表情の二人に、アンディーは戸惑った。
あんな表情をした二人は見たことがない。
一体何が彼女たちをそこまでさせるのか。
普段魔族と戦っている彼女達からは考えられないほど怒りや憎しみに満ちた表情をしている。あまりに鬼気迫る二人をアンディーは止めることが出来なかった。
腕力を武器に接近戦を行うアルギュロスと違い、二人は遠距離攻撃系の魔法使いと、回復魔法を使う後方支援型の魔法使いだ。上手く遠距離戦に持って行ければ勝機もあるかもしれないが、正直無謀である。
「覚悟しなさい!」
「あんたに恨みはないけどさ、あんたのパパには嫌気がさしてんのさ!」
アルギュロスが距離を詰める前に二人が攻撃を仕掛けた。まさか二人が襲いかかってくるとは思ってもいなかった。突然のことにアルギュロスは反応できなかった。
「『
「『
「きゃあ!」
見事威力が増した
避けられなかった火の魔法によって、アルギュロスのメイド服の裾が燃えていた。懸命に叩いて火を消したものの、しっかりと焦げ跡が残ってしまった。
「ジークパパがつくってくれたふくが……」
アルギュロスは焦げ跡を呆然と見つめていた。じんわりと目に涙がたまっていく。
しかし泣き言を言っている場合ではなかった。間髪入れずに次の攻撃魔法が威力を増して降りかかってくる。次々と降りかかってくる
このままでは埒があかない。
アルギュロスは苦虫を噛み潰したような顔を見せた。
「やめて!パパになんのうらみがあるの!」
アルギュロスは
しかし魔法を絶え間なく撃ち続けながらアルギュロスの身体能力について行くのは並大抵のことではない。二人の消耗はかなり激しかった。
そうやってアルギュロスは確実に少しずつ彼女たちの体力を削っていったのだ。本当は殴り飛ばしてやりたいが、近づき過ぎれば服が汚れてしまう。アルギュロスも服を守りながら戦うのはかなり無理があった。
「あんたのパパはさぁ!裸をのぞいたり!下着を盗んだり!そんな事ばっかりしてたのさ!」
「え……?」
ジークへの恨みごとを言いながら彼女達もアルギュロスの隙を見て反撃していく。その攻撃を避けながら、アルギュロスはジークの事実に目を丸くしていた。
「一番嫌だったのは私たちの下着を履いた事です!」
「っ!?」
まるで日頃の鬱憤を晴らすかのように女性たちの反撃は勢いを増していく。アルギュロスは二人がかりの攻撃に押され始めていた。ジークの事を聞いて動揺していたというのも事実だ。
次第に劣勢に転じてしまい、アルギュロスは軽いパニックになっていた。なんせ戦闘はまだまだ初心者である。仕方ないと言えば仕方ない事であった。
「あらあら」
見かねたカルティアが高みの見物から舞い降りてきた。
絶対に戦いに入ってくることはないと思っていたカルティアの登場に、二人は驚きを隠せなかった。カルティアは二人とアルギュロスの間に入り、そして、いとも簡単に魔法で二人を吹き飛ばした。
「きゃ!」
「くっ!」
そして二人が倒れている隙に、アルギュロスを守るように抱きしめて、ふわりと宙に浮かんだ。
「ここまでみたいねえ。アルギュロスちゃんを殺されたら困るの。今日はこれで退却させてもらうわ」
「はぁ!?」
「お待ちなさい!」
カルティアはそのままアルギュロスと共に姿を消した。
しかし女子二人の感情は高まったまま、おさまる様子がない。
「ちょっと!二人とも落ち着いて!」
「アンディー!離しなさい!」
「許すまじ!ジーク!!」
ジークは今にも魔王軍の本部に乗り込んで行きそうな二人を必死に抑えた。
ーージーク。元気そうでよかった。
キィキィと叫ぶ二人を宥めながら、アンディーはひっそりとそう思った。
魔王軍に上手く潜入し、今のところ無事なのようである。弱体化どころかかなり強化されていたようだが、それにもきっと何か理由があるのだろう。
ーーいつかまた、君と一緒に戦える日が楽しみだよ。
同じ空の下、道は違えど目的地は同じ。アンディーは遠くで頑張っている友人に思いを馳せるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます