第8話
「なんだよ、そんな穴なんて、無かったぞ?」
「うん。アタシにも全然見えなかった。ユメミには見えてたの?」
怪訝そうな顔のノイとシキの周りを飛び回りながら、ツンもユメミの様子をうかがっているような感じ。
「うん。大きな真っ黒い穴がね、あちこちにあったよ。だからわたし、『ナナ』に行かないでって、言ったのに」
(目覚める事が無いなんて。抜け殻なんて。それって、そんなのって・・・・)
ユメミの中に嫌な二文字が浮かび上がり、慌てて頭を振ってその二文字を振り払う。
「ぎゃっ!記憶がっ!『ナナ』の記憶がっ!」
突然上がったタムの叫び声に、記憶の棚を振り返れば、色とりどりの丸いボールが、いくつかグレーに変色し、その色は次第に濃く、そして次第に周りに移り始めている。
「・・・・まずいな、このままじゃ・・・・」
「ねぇ、ドリィ。『ナナ』を助けに行くことはできないのっ?!わたし、ナナを助けたいっ!」
唇をかんで、少年らしからぬ顔で眉間にしわを寄せているドリィに、ユメミは必死に訴えた。
「ナナはわたしの大事な友達なのっ、お願いっ、ドリィ。何か知ってるなら教えて!」
「そういえば、あなたにもその黒い穴っていうの、見えてたのよねぇ?ドリィ。まだまだ見習いに毛が生えた程度だけど、一応あなたもゆめつくり部屋の巡回者でしょ。だったら何か知ってるんじゃないの?」
「失礼だね。見習いなんてとっくに卒業しているよ。僕はもう一人前の巡回者だ!」
「だったら余計、何か知ってるんじゃないの?『ナナ』はおいら達にとっても大事な存在なんだよ?なんたっておいら達は、『ナナ』のためのユメツクリなんだから」
「そうだよ、見てくれる『ナナ』が居なくなっちゃうなんて、私だってやだよー!ねぇ、ドリィ。なんか『ナナ』を助ける方法、知らないのっ?!」
ナナの切実な訴えを後押しするかのように、ユリ、クス、メアもドリィへ詰め寄る。
(『**闇に沈み*者 己の***ばぬ限り 闇より***術は無* されど)
不意に、ドリィの頭に愛読書に記された一説が浮かんだ。
(もしかして、これって・・・・)
一筋の希望の光が見えたような気がし、ドリィは小さく頷いた。
だが、光がある場所には必ず影がある。闇がある。
それは、ドリィにとっては、勝つアテの全くない、賭けのようなものでもあった。
「手が全く無い訳では無いと思う」
険しい顔のまま話し始めたドリィの言葉に、ユメミと9人のユメツクリ達は真剣に耳を傾ける。
「もしかしたら、『ナナ』を助ける事はできるかもしれない。だけど・・・・失敗したら、助けに行った者まで全員漏れなく闇に囚われ、二度と戻っては来られない可能性が大きい」
静まり返るゆめつくり部屋の中。
「勝算は?」
短く問うイラに、ドリィは言った。
「全くもって、予測不能だよ」
再び静まり返る部屋の中。
「でも・・・・それでも、いい。わたしは『ナナ』を助けに行きたい。ううん、助けに行かなきゃ。きっと、きっとね。『ナナ』は助けに来るのを待っててくれてる気がするから」
落ち着いた、でも力強い声でそう言い切るユメミに続き、シキとノイも賛同の意を示す。
「うん、そうだね。アタシも行きたい。だって、『ナナ』がいないんじゃ、アタシがいたって意味無いし。『ナナ』に見てもらえない夢作ったって、何の意味も無いじゃない。だってアタシは、『ナナ』の夢を作るためにここにいるんだもの」
「そういう意味なら俺もだな。俺は『ナナ』だけのイケメン担当だし。助けを求めている女の子を颯爽と助けに行く。それが本当のイケメンってもんだしな」
すると、ツンもクルクルとユメミの周りを回り始め、メアとクスも大きく頷いた。
「私も行く!闇だかなんだか知らないけど、めっちゃうるさくて賑やかな音楽でも流せば、闇の方から驚いて逃げるんじゃない?」
「じゃあ、おいらは出来る限り明るい照明で照らしてみようかな。闇なら光には弱いはずだしね!」
「あたしも行きたいところだけど・・・・」
少し離れた場所から、タムが記憶のボールをひとつひとつ確認しながら、申し訳なさそうな声を出す。
「このままじゃ、『ナナ』の記憶がみんな真っ黒になっちゃう・・・・だからあたしはここで、『ナナ』の記憶を守る!」
「タムだけじゃ大変だから、ボクもここに残る。記憶を全部真っ黒になんか、させない。絶対に」
「ワタシもマシンを通せば記憶の確認はできるわ。もしかしたら、染まってしまった記憶も、修正して元に戻すことができるかもしれない。だから、ここに残って記憶を守る」
タムに続いて、イラとユリが、『ナナ』の記憶を守るべく立ち上がる。
「・・・・キミ達は優秀なんだか無鉄砲なんだか、僕にはどっちか分からなくなってきたよ」
ユメツクリ達の決意表明を受け止め、ドリィは呆れたように笑い、砂時計を持ったまま立ち尽くしているリマに声を掛けた。
「これからあの黒い穴を再現して、ユメミ、ノイ、シキ、メア、ツン、クス、と僕で、『ナナ』を救出しに向かう。黒い穴に僕らが入ったら、リマにはその砂時計の砂を動かして欲しいんだ。できそう?」
ドリィの言葉に、リマは力強く、はい、と頷いた。
けれども。
「良かった。じゃあ、砂が動き始めたら、リマはここで時間を見ていてね」
のドリィの言葉には、ぶんぶんと強く首を横に振る。
「一緒に行きます」
「ええっ?!」
「一緒に行かないと、残り時間が伝えられません」
「・・・・確かに」
(『其の***めつくり部屋****現れし時 9人のユメ******者と共*****力を合わせ 心の****みし者を救い出す』、か。これはもしかすると、もしかするかもしれない、かな?)
再び脳裏に浮かんだ愛読書の一説に、ドリィは膨らみ始めた期待を抱えつつ、キュッと口元を引き締めた。
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