第9話
「とりあえず再現してみたはずなんだけど・・・・」
さっそく、ユリ、メア、クスが、先ほどと同じテーマパークを舞台上に再現した。
けれどもそこには、あの大きな黒い穴は無い。
「どうしよう・・・・これじゃ、『ナナ』を助けに行けない」
焦るユメミに、ドリィも唸り声をあげて舞台を睨む。
「あれは、ユメツクリ達が作ったものではないからね。『ナナ』自身が心の中に住まわせてしまった闇なんだ。さすがの僕も、夢以外については門外漢だから」
「まるで、夢については何でも知ってるみたいに聞こえるわね」
「タム、何か言った?」
「別に~」
ドリィとタムが軽い言い合いをしていると。
ツンがビクッと体を震わせ、舞台上に飛び乗った。
「どうした、ツン?」
ツンの後を追うようにしてノイ、シキも舞台へと上がる。
「もしかしたら・・・・ツンが何か感じ取っているのかもしれない、動物的勘で。行くよ、ユメミ」
そう言うと、ドリィはユメミの手を取って共に舞台へと上がった。
舞台上のツンは、『ナナ』が吸い込まれてしまった穴があった場所あたりを、ウロウロと飛び回り、時折”クウン”とまるで犬のような鳴き声を上げている。
その、鳴き声の合間。
「・・・・聞こえる」
微かな声を、ユメミの耳が捉えた。
"ヤダ・・・・ちがう、私・・・・"
「ナナっ!」
それは間違いなく、ナナの声。
か細くて、今にも消えてしまいそうな小さな声。
「ナナ、どこに居るのっ、どうすればそこに行けるのっ?!」
「大丈夫だよ、ユメミ。きっと何とかなる。・・・・違うね、何とかするんだよ、私たちで」
いつの間にかユメミのそばに寄り添うように立っていたメアが、そっとユメミの肩を抱く。
そのすぐ隣で。
「闇、だからねぇ。闇は光を嫌う・・・・そうか。ねぇクス、とりあえずこのあたりの照明、落としてみてくれるかな?」
考え込んでいたドリィが、ふと思いついたようにクスに指示を出す。
「了解!こんな感じでどうかな?」
ツンが飛び回るあたりだけが薄暗くなったとたん。
床から黒い影がせり上がり、人ひとりが通れるくらいの真っ黒な入口が姿を現した。
「ビンゴっ♪」
「なっ、なんだこれっ?!」
「こんなの、さっきは無かったわよ?!」
驚くノイとシキに、得意げな顔で指を鳴らしたドリィだったが、
"たす・・・・け・・・・"
直後に笑みを消し、ユメミを見た。
「聞こえた?」
「うん。ナナが待ってる。行かなきゃ」
「待って」
黒い入口に今にも飛び込みそうなユメミの腕を掴んで、ドリィが再度尋ねる。
「本当に、行くの?」
「うん」
「失敗したら、キミも戻って来られなくなるかもしれないんだよ?」
「分かってる。でも、わたしは行く」
そう答えるユメミの目に固い決意を感じ、ドリィは聞いた。
「なんで?なんでそこまでして?」
「だって」
穏やかに笑って、ユメミは答えた。
「ナナはわたしの大事な親友だから」
(『其の***めつくり部屋****現れし時』・・・・ユメミの事、なんだろうね、きっと。あれは、『其の者のゆめつくり部屋に真の友現れし時』とでも、書いてあったのかな)
脳裏に浮かんだ愛読書の一説。掠れて読みとれない文字が鮮やかに浮かび上がってきたような気がして、ドリィは小さく笑った。
「そっか。わかった。みんなも、いい?やめるなら、今だけど?」
ドリィの言葉に、【やめる】などと言い出すユメツクリは1人もいない。
「じゃあリマ、砂時計よろしく」
「はい」
止まったままの砂時計をリマが優しく撫でると、再びサラサラと砂が落ち始める。
「それじゃ・・・・行くよ」
ドリィの言葉に。
ユメミ、ノイ、シキ、メア、ツン、クス、リマが、続けて黒い入口へと飛び込んだ。
「行ってらっしゃい!こっちは任せて!」
「気を付けて」
「必ず『ナナ』を連れて帰ってくるのよっ!全員でねっ!」
次第に黒さを増す記憶のボールと格闘しながら、タム、イラ、ユリが彼らの背中に精一杯のエールを送った。
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