第7話
「ナナ、ごめんね。あの日、ナナと先に約束してたのに。ナナ、わたしに何か話したいことがあったんだよね。きっと、大事な話だったんだよね。でもわたし、ナナとの約束破るつもりなんか無かったんだよ。ほんとだよ。それに、マユミがなんで『ナナはダメ』なんて言ったのか、わたしも分からないんだよ」
ユメミは、ずっと言おうと思っていた事を『ナナ』へと伝えた。
この、『ナナ』の『ゆめつくり』の部屋へ来る直前に、ナナへ伝えようと思っていた言葉だ。
けれども、『ナナ』は不思議そうな顔をしてユメミを見た。
「どうしたの?何の話?」
「えっ?」
「それよりさ、早く行こうよ!みんなもう来てるよ!」
弾けるような笑顔を見せて、『ナナ』がユメミの手を取る。
『ナナ』と手を繋いだ瞬間、そこはナナもユメミも大好きなテーマパークへと変わっていた。
(・・・・違う、ここはあそこじゃない)
心躍る音楽があたりに響く中、ユメミはそこここに見える真っ黒な穴の存在に、恐怖を覚えた。
あのテーマパークには、こんな黒い穴など無かった。どこに続いているかも分からないような、先が全く見えない黒い穴。
それなのに。
『ナナ』はその穴には全く気付いていない様子。
「ナナちゃん、ユメミちゃん、こっちこっち!」
「あれ乗ろう!早く早くっ!」
『ナナ』の夢の中では一緒に来ている設定になっているのであろうクラスメイト達が、『ナナ』とユメミを先導するように走っていく。
その先にあるのは、ひときわ大きな黒い穴。
どうやら不可解なことに、ノイとシキが変身して演じているはずのクラスメイト達も誰一人として、真っ黒な穴の存在には気づいていないようだった。
真っ黒な穴の上には、白い鳥に変身したツンが、やはりその存在に気づいていない様子で優雅に舞っている。
「だめっ!ナナ、そっちはダメっ!」
「何言ってるの、ユメミ。大丈夫だよ、前も乗ったでしょ?怖がりだなぁもう」
あたりを包んでいるのは、相も変わらず浮き浮きするような楽しい音楽。
その音楽が、今は余計にユメミの恐怖を増幅させる。
「違うのナナっ、そっちは」
スルリと、ナナの手がユメミの手から離れ。
「行かないでっ、ダメっ、ナナっ!」
ユメミの言葉も空しく、楽しそうに笑う『ナナ』の姿は、そのまま真っ黒な穴の中に吸い込まれるようにして消えていった。
「帰りました。時間が余ってます」
タイムキーパーのリマの持つ大きな砂時計は、上の砂がまだ三分の一ほど残った状態。
困惑の表情を浮かべるリマ。そして、他のユメツクリ達は皆、突然の『ナナ』の帰りにあっけにとられた様子。
「いや、帰ったんじゃない」
「えっ?だって『ナナ』、いなくなったじゃない」
元の姿にもどったシキが、不思議そうな顔でドリィを見る。
ドリィの言葉に嫌な胸騒ぎを感じ、
「帰ったんじゃないなら、『ナナ』はどこに行っちゃったの?」
おそるおそる尋ねるユメミに、ドリィが険しい表情で答えた。
「ユメミにも見えてたんだよね、あの黒い穴。あれはね、ユメツクリ達が作った穴じゃないんだ。あれは、『ナナ』の心に巣食った闇。『ナナ』は自らその穴の中に飛び込んでいった。今頃きっと、『ナナ』は夢ではなくて闇の中で彷徨っていると思う」
「でも・・・・あれはナナが見ていた夢でしょう?だったら、目が覚めたら」
「そんな簡単な事じゃないんだ、ユメミ。あの闇に囚われたが最後、自力で抜け出すまで、その人間が目覚めることは無いんだ。目覚めたとしても、それはただの抜け殻なんだよ。心が、闇に囚われたままの抜け殻。そうなったらもう、夢は、見られないんだ」
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