今日のサンデビ 【相性】
一山越えて、ひと段落。今宵は久しぶりに定時に上がり、ライと二人でお疲れ様会を開催中。彼希望のお洒落な創作居酒屋は、味も雰囲気も抜群だった。
オフィスの外で気が抜けて、更には酒の助けもあってか、お疲れ様会となる距離感が近くなるライ。穏やかな個室の中、なぜだか隣に並んで座っている。
*
一山越えて、ひと段落。今宵は久しぶりに定時に上がり、先輩とご飯を堪能中。彼が好みそうなさっぱり系メニューを豊富に扱う創作居酒屋を探して提案。反応は上々。洋風唐揚げもお気に召してもらえた様子だ。
自分がずるい人間だと思うことがある。
年上で、程よい兄気質を持ち合わせた彼は、自分を存分に甘やかしてくれる。頑張ったなと褒めながら、しんどかった時期を忘れさせてくれる。せっかくなので、今夜も存分にエネルギーチャージさせてもらおう。
「せんぱーい。疲れたー」
酔ったふりをして、先輩の肩に頭を預ける。
「いい感じに酔ってんな」
グラスを置き、ただ静かにそこにいてくれる先輩。邪魔だと引き剥がすことも、気持ち悪いと避けることもない。最初から、そうだった。
なんとなく見上げてみた。なんとなく目が合った。
「ん?」
いえ、そう言って視線を逃した。顔を下げるとき、微かに甘い香りがした。
「せんぱい。今日は一段といい匂いしますね」
「柔軟剤新しくした」
「いえ、これは先輩の香りです」
ん、と鈍い声を出した後、徐々に引いていく体。
「これは、その。あれだ。今日は出ずっぱりだったし、汗かいてその……ごめん」
「いやいや。いい香りって言ったじゃないですか」
彼は楽しそうに笑って言った。
「ライ。鼻は大丈夫か?」
「はい! これはあれです。相性抜群の香りです」
彼は訝しげに言った。
「ライ……頭は大丈夫か?」
「失礼なー!」
少しばかり姿勢を正す。本気度を見せたかった。
「ご存じなかったですか? 獣人は、種族や獣能力問わず、嗅覚が発達しているんですよ」
「そうなのか?」
意外にも興味を惹かれたご様子。少しだけ説明することにした。
「はい。獣人は人と違い、互いに生物学的な相性があるんです。掛け合わせにより獣能力、つまり生存本能が弱体化する相手を必然的に避ける必要があるんですよ。そのシグナルが嗅覚。心地よい香りは同類、または好相性の印。つまり、自分と先輩は相性が良いという分析結果ですね」
「待て待て待て待て」
いよいよ理解が追いつかないと言った様子で首を振る彼。
「先輩、勘違いしないでくださいよ? なにも恋愛に発展する相性だけに限りません。先輩のこれは、多分、うーん……」
自分もこれまで、好ましい香りを感じることはままあった。だけどそれは獣人が相手。ここまで強く効く感覚を、人に感じたことはなかった。
「……多分なんだよ?」
職場で見せるあの強気はどこへやら。不安に怯える瞳が可愛い。ついつい悪戯心に火がついた。
「自分、もしかして、先輩の健康状態を嗅ぎ分けているのでしょうか。ああ、まあ確かに。新鮮な方がいいですもんねえ」
「急に何? どういうこと?」
「フクロウって肉食なんですよねえ」
「嘘だろ!?」
笑いを堪えきれなくなった自分を見て、嘘はすぐバレました。覚えてろ、と自分の前髪をくしゃくしゃと乱す先輩。指の隙間から覗く、柔らかい微笑み。完全に、エネルギーチャージ完了。
「えへへ」
「何? 乱し足りない?」
「違いますよっ!」
これでまた、頑張れる。
たとえどんなに高い山があっても。
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