本日の三題噺 2/13 『目玉焼き』、『ラジオ』、『前夜祭』
キョウ ノ リョウリ
「……で……前夜……祭り……」
ラジオが途切れ途切れに言葉を伝えてくるが、何を言っているのか分からない。
分からない言葉を、ずっと聞いている。
国内にラジオ局はもうないので、隣国の放送を聞いている。
祭りというのは長く続いた戦争に隣国が勝った祭りだろうか。その前夜祭?
国境で小さないざこざがあることは聞いていたが、国同士の争いになるとは誰も思わなかっただろう。
二か国ともは国土は広いが、氷に覆われている土地が多い。寒さのせいで作物の出来も良くないが、それなりの生活はできていた。だが、何も知らされていないだけだった。
肉も魚もたまごもずいぶん前に食べたきりだ。夢に出てくる。
相変わらず、ラジオが途切れた言葉を流している。負けた我が国は、ラジオ放送をする余裕などない。それどころか死者の埋葬すら進んでいない。あちらこちらで凍っているのを見る。
途切れる放送を聞いているとイライラしたが、今はもう慣れた。
ラジオを消すと風の音と死霊の声が耳につく。
心細さを消すためにラジオを聞く。
そして、途切れた言葉を想像で補う。想像が間違っていても、隣国のことなので自分にはも何の影響もない。
今、一番重要なのは配給だ。元々食料が豊富にある国ではなかったのに、今は輪をかけて物がない。
前回の配給品が残り少なくなった。でも、きっと大丈夫。なんとかなる。
ラジオを聞きながら目玉焼きを作る。本物の目玉焼きを。
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