第5回「1000文字以内でミッション全てクリアせよ!」(951文字)
それを見てはいけない人だった
「それは白馬に乗ってやってきた」
山田はそこで言葉を区切ると、コップに残った日本酒を飲み干した。
「それって何だよ。もったいぶらないで教えろよ」
高橋は一升瓶を持ち上げ、空になった山田のコップに注いだ。山田が手土産として持ってきた、本物の日本酒だ。久し振りの本物の味に酔う。
「それが何だか、よく分からないんだ。『侍が乗っていた』『陸軍の軍人さんが乗っていた』『鎧武者』『ひらひらした服の異人さん』『特に特徴がない男』、それを見た人たちの答えは様々だったんだ」
山田は怪しげな雑誌の記者をしている。家が金持ちだった山田は、大抵のことには飽きていた。
謎の死者が何人も出ているという村の取材に行った。その結果、白馬に乗った何かを見たのが、死に関係していると山田は考えていた。
「でも、それおかしくないか」
自分のコップに日本酒を注いで、高橋が絡む。
「見たら死ぬんだったら、侍見た~軍人さん見た~っていう人なんかも死んでるんじゃないの」
高橋の問いに山田も頷く。
結局、白馬に乗ってやってきたそれを見ただけではなく、他にも何か原因があるのではないか、引き続き取材を進める。と発売された雑誌の山田の記事は締めくくられていた。
そんなオカルトじみた怪しい記事でも人気があったのか、山田は再度村に取材に行くことになった。
山田は村人に聞いたそれを見た日にちや時間をまとめた取材メモを眺める。法則があるようでないような数字が並ぶ。とりあえず、時間はすぐに分かった。深夜だ。日にちはよく分からないので、下手な鉄砲数撃ちゃ当たると夜中に出歩くことにした。
旅館の女将に理由を話すと呆れたようだったが、客の要望を聞いてくれた。
一週間近く出歩いたが、それには会えなかった。
諦めて最後にしようと思った夜に、馬の蹄の音が聞こえた。
話に聞いた白馬だ。乗っているのは陰になってよく見えない。
近づいていくと、一瞬だが顔がはっきりと見えた。
翌日、道で倒れている山田が見つかった。すでに死んでいた。
その表情は、有り得ないものを見たのか、驚きの表情をしていた。
結局、山田の取材を引き継いだ記者が、山田の死すら面白おかしい記事として雑誌に載せていた。
夜中に出歩く人もいなくなり、死者は出なくなった。
それの正体は分からずじまいだったが、もう取材に来る記者はいなかった。
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