【三題噺】「運命」「トマト」「図書館」

 運命の出会い

 あの夏の日の出会いは、運命だったんだ。

 町立図書館の裏は、トマト畑が広がっている。町一番のトマト農家の高橋さんの農園は、町の至る所にある。

 高二の夏休み、宿題をするために畑の横の道路を自転車で通りながら、図書館へ行く。一人で行くこともあれば、友達と行くこともある。

 あの日、友達と図書館へ行ったが、別の友達と遊ぶためにいつもと違う時間に二人で図書館から帰った。

 トマト畑には見かけたことのない、二十歳前後の女の人がいた。

 収穫したみずみずしい赤く輝くトマトを手に持ち、とてもうれしそうに微笑んでいた。

 見えたのは自転車で通り過ぎるほんのわずかな時間だが、とても印象的だった。

 そう思ったのは僕だけではなかった。友達も「今の女の人、すごい綺麗だったよなあ」とわざわざ寄ってきて言うほどだった。

 翌日も友達と二人で図書館へ行った。その時、友達から驚きの情報を聞いた


「昨日の女の人、高橋さんのお孫さんで優香さんって言うんだって。一人暮らししながら、農学部で勉強しているんだって。今年は『金太郎』っていう新しい品種のトマトを初めて植えたから、優香さん様子を見に帰ってきてるんだってさ。今までも苗の様子を見に土日とか帰って来てたらしいよ」


「それ、誰から聞いたの」


「うちのばあちゃん。ばあちゃん、高橋さんとこのばあちゃんと友達なんだ。たまにトマトをおすそ分けでもらってくるよ」


 僕は友達に本心を悟られないように、慎重に話しだす。


「へえエえ、じゃあその『金太郎』ってトマトも食べたの」


 何でもないように聞こうとしたが、失敗して声が裏返っていた。


「どうした。優香さんて名前が分かったからって喜びすぎ」


 友達の言葉を笑ってごまかした。

 僕は大学に進学して勉強の傍ら、トマト料理研究家として活動するようになった。

 あの日、『金太郎』と出会ったことで、僕の人生は決まったのだ。



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