第4回「1000文字以内でミッション全てクリアせよ!」(630文字)

 墓守りの腕時計

 墓守りは一族の墓を管理する合間に腕時計の日々の手入れを怠らない。

 この腕時計が止まった時に、世界が終わると聞いていたからだ。

 これは一族の当主の持ち物だったが、今は墓守りが預かっている。

 この腕時計は代々の当主に引き継がれる懐中時計だった。それを百五十年ほど前の当主がベルトを付けて腕時計にしたのだった。

 その当主は好奇心旺盛で活動的な明るい人物だったと言われている。

 彼以前の当主は一族の財産を守り、あるいは増やそうといつも難しい顔をしていたが、彼はそうではなかったと。

 いつも笑顔だった彼が難しい顔をしていると親族が心配して理由を聞くが彼は何も言わない。

 その一年後、病んでしまった彼は自死を選んだ。

『知ってはいけないことを知ってしまった。この腕時計が止まった時にこの世界は滅びてしまう』

 彼の遺書にはそれだけが書かれていた。

 彼の遺品は形見分けで親族に与えられたが、腕時計だけは恐れられ誰も引き取らなかった。

 彼の次の当主でさえも。

 時計を引き継ぐのはただの慣習で当主が必ず持つ必要はないとして、その腕時計を一族の末席に連なっている墓守りに押し付けた。

 墓守りは恐れていたが、彼の息子は全然気にせず手にした。

 百五十年前のその日から腕時計は当主の屋敷ではなく、墓守りの家にあった。


 今、墓守りはこの世界の現状を憂えている。

 この世界は、一度滅びて新しい世界になった方が良いのではないかと。

 そしてそれ以上に自分の人生を憂いている。

 百五十年前に時計を手にした日から続いている自分の人生を。


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