【三題噺】「チョコレート」「安心」「カレー」

 カレーの行方

「僕が晩飯作るから」

 僕の料理の腕を信用していない妻が何か言う前に、彼女を安心させるように買い置きのカレールーの箱を差し出す。

 それでも妻は念を押してくる。

「箱の裏に書いてある材料以外は入れないでね」

 僕は買い物に一人で行った。妻も一緒に行きたそうだったが、彼女はまだやらなければいけない仕事が残っている。明日使う資料を作らなければいけないのだ。

 スーパーへ行き、店内をウロウロしながら考える。

 カレー一箱だと十二皿、半分でも六皿。でもうちは妻と二人なので六皿でも多い。         

 その半分の量で作ろうか?

 どうしようか悩んでいると、僕を通り越した客の買い物カゴにサバ缶が入っていた。カレーにサバ缶入れても、美味しいそうだよなぁ。

 売り場にあった豆腐を見れば豆腐カレーもいいかもしれないと思う。

 スマホで料理レシピ投稿サイトを見ると、そういうカレーの作り方も載っていた。

 だが今回は、言われた通りに箱の裏の材料だけにする。豚肉じゃがいも玉ねぎ人参。あとは仕事を頑張っている妻にチョコレートを買った。

 家に帰り晩飯を作り始める前におやつにしようとインスタントコーヒーを入れ、二人でチョコを食べた。妻は仕事に戻り、僕はカレー作りを始めた。

 妻の仕事のキリがいいところで晩飯にした。

 一口食べた妻が、いつもより低い声で言った。

「ねえ、これ何入れたの」 

「ソースとしょう油とケチャップとインスタントコーヒーとチョコレートと牛乳と……」

 隠し味として書き込みがあった物ばかりだ。変な物は入れていない。

 妻の声がますます低くなる。

「余計な物入れないように言ったよね、私」

 僕は捨ててあったカレールウの箱を拾い、妻に見せる。

「材料にはちみつって書いてないけど、作り方にはちみつが入っているだろ。だから隠し味は入れてもいいと思ったんだ」

 妻はため息をついて、また食べ始めた。

「微妙な味だけど、まずくはないのがカレーのすごいところよね」

 いつもより晩飯の時間が長かった。


 どうしよう。僕はとても焦っていた。大量に作れば美味しいと書き込みを読んだので、一箱分作ったんだ。

 翌日から僕の昼飯は、社食ではなく持参した弁当になった。

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