第4回「エイル&クロノヒョウコラボ企画!」(1058文字)
一世一代の決断
社員寮の一階にある食堂のつけっぱなしのテレビから、お天気ニュースが聞こえてくる。朝食の手を止めてテレビを見ていると、今日は暑からず寒からず雨も降らず強い風も吹かず、お散歩日和のようだ。
思わず舌打ちをしてしまった自分を戒める。人当たりの良い好青年と言う偽物の仮面が外れてはいけない。笑顔笑顔笑顔、自分に言い聞かせる。
ちょっとしたことでクレームを付けられ、評価を下げられることもあり得る。
返却口に食器を返し、重い足取りで自分の部屋へ戻った。
☆ ☆ ☆
個室の前で一度深呼吸をしてからノックをする。
「おはようございます。付添人の森です。めメ子さん、散歩の時間ですよ」
この施設の敷地内にある散歩コースは見事なものだった。
春には桜、夏には富士山、秋にはアメリカ、冬には月の裏側が見える設計者の力作だった。それに運が良ければ、この世の果ても見ることができるらしい。
「めメ子さん、今日は天気がいいのでキューバも見えるかもしれませんよ」
返事がないので一言断りを入れて中に入る。
今日のめメ子さんの姿は、ラーメンから丼ぶりを除いたようだった。この前のカレーからソースポットを除いたような姿よりはマシ……なのか?
がま口よりはいいか。あの時は、ミートソース教の教義を延々としゃべっていた。
いや普通に人型になってほしい。
改めて散歩に誘うと、めメ子さんはふよふよとついてきた。
「めメ子さん、めメ子さん⁉ この世の果てですよ。こんな近くに見えます」
少し歩くと突然見えたこの世の果てに目を釘付けにしたまま、めメ子さんを呼ぶが反応がない。振り返ると誰もいなかった。焦ってあたりを探すと、アラスカに寄って行くめメ子さんがいた。
「めメ子さん、ダメですよ。あっちは一般コースではないので申請が必要です。アラスカに行きたいなら、申請してからにしましょうね」
めメ子さんはおとなしく戻ってきた。
「これはこの世の果てですよ。めメ子さん見たことありますか」
めメ子さんとこの世の果てを見ていると、何かが囁いた。
『めメ子さんをこの世の果てに落とせば、全て元通りになる』
めメ子さんがいなくなれば、この世は元通りになる?
でも、「元」っていつなのか。
めメ子さんが現れたのは、百年前だといわれている。
でも、確認できたのが百年前だけど、それ以前から存在していたという研究者もいる。
百年前、五百年前、千年以上前、人類の誕生と同じ時期、恐竜と共存していた等、 研究者の数だけ説がある。
元通りの世界は幸せなのか。
この世の果てを覗いている様子のめメ子さんをじっと見つめる。
理性と良心が試されている。
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