音楽と嘘と〇〇小説大賞(1069文字)
魅惑的で危険な歌声
引越しをしてからはお母さんが愛犬リラの毎朝の散歩をしてくれていたが、高校が夏休みになったので僕がするようになった。
家を出て海岸沿いの遊歩道を歩いて行く。駐車場まで行ってから折り返す、というのが散歩コースだった。
散歩中に歌声に気付いた。優しい歌声だった。声の方を見ると砂浜に女の人がいて海に向かって歌っていた。何の歌だかわからない が日本語ではない。英語でもなさそうなことは分かった。
ある朝散歩に行くと、女の人に男の人が話しかけていた。気になったがどうすることもできないので散歩して帰ってきた。その日は一日モヤモヤしていた。
翌日に男の人はいなかった。でも二、三日するとまた男の人がいた。前とは別の男の人だ。翌日にはいなかったが二、三日するとまた男の人がいた。
男の人は翌日には来なくなり二、三日するとまた別の男の人がいる、ということを繰り返していた。気になるので男の人がいなくなった日に女の人の歌を近くで聞こうと砂浜に降りようとしたが、リラが嫌がって引っ張っても 引っ張っても踏ん張って動かない。砂浜に行くのは諦めて散歩を続けた。
その日女の人と話していた男の人が別れて遊歩道に来た。その男の人とすれ違ったがイケメンだった。何のスポーツをしているのか、引き締まった体をしていてモテそうな人だった
彼女に声をかけるのはイケメンなのかと思い、近寄らなくてよかったとリラに感謝した。
夏休みが終わると女の人はいなくなった。朝の散歩は続いていたが、女の人を見ることはなかった。
その年の冬、コンビニに貼ってあった探していますポスターを見て驚いた。
あのイケメンさんだったからだ。
ネットによると彼は友人と作ったサッカーチームに所属しており、毎朝海岸をランニングしていたらしい。その日もランニングに行くと言って家を出てそのまま行方不明になったみたいだ。
行方不明になったのは、夏に女の人に声をかけたからじゃないのか。そうは思っても僕にはどうすることもできない。
何の根拠もない、こんな妄想じみた考えを言えるわけがない。
彼女は現代のセイレーンではないのか。そんなことを考えてしまった。
あの優しい歌声で男の人を呼び寄せているんだ。
現代のセイレーンは進化していて、呼び寄せてすぐその場で男の人を殺したりはしない。
すぐにばれて、次の獲物が近寄らなくなるから、時間をおいて自分のもとに呼び寄せるんだ。
あの砂浜からどこかへ迷い込んで、セイレーンのもとへ行ったんだ。
もしかして声をかけた男の人は全員……。
毎年、夏が来る。
毎年、女の人は来るのか。
会えるのを楽しみにしている、自分に驚いた。
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