第32回「2000文字以内でお題に挑戦!」企画(530文字)

 夜明けにふたりで

 腰を痛めたばあちゃんの代わりに、僕がじいちゃんの墓参りに来た。

 墓では三十歳前後の女の人がお線香をあげていた。見ていたらその女の人が「〇〇さんのお孫さんですか」と声をかけてきたので頷いた。

 若い女性がじいちゃんのどういう知り合いか気になったので聞いてみたら「〇〇さんに以前ナンパされたことがあるのです」と答えたので、「はゎ」という間抜けな声が出た。たぶん顔も間抜け面だったと思う。

 じいちゃんが死んだのは十年ほど前、七十二歳の時だった。

 ナンパされたっていつ? 下手したら10代の女の子をナンパしたってこと?

 結婚前はともかく、結婚してからはばあちゃん一筋だったとじいちゃんは言っていたのに。

 僕は焦っていたが、それに気付がつかず女の人は話し続ける。


「『夜明けのコーヒーを二人で飲まないか』って声をかけられたんです。私は人と関わらないようにずっと一人で生きてきたので、声をかけられて嬉しかったんです。でも振られちゃいました」


 嬉しそうな女性の表情が曇る。


「私はずっと〇〇さんと生きていきたい、そう思ったから彼の真似をして『 夜明けのマーメイド一緒に食べませんか』 って誘ったのに」


 僕は返事に困った。

 彼女はとても悲しそうな表情をしていたが、何を悲しんでいるのか僕には分からなかった。

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