【過去】【食】【ペット】の要素を含む小説

 昔と今はつながっている

 こんな山奥にようこそいらっしゃった。

 あんたもこの山の「謎の未確認動物」について聞きに来たのか。

 こういう話題が好きな人は多いんだな。あんたで何人目になるか。

 それとも興味があるのは、別の方かな。


 あれはわしが小学生の頃、六十年以上前のことだ。

 当時、両親の離婚でもめてゴタゴタしていて、母方の実家のこの山の麓の村で暮らしていたんだ。村の暮らしに 慣れなくて人と関わりたくなくて、よくこの山に来ていた。

 ある日出会ったあいつは、子犬のように見えたが犬じゃなかった。 木に登ったんだ。枝から枝へ飛び移ったのを見た。猫みたいだった。犬みたいな猫みたいな なんだか分からない動物だったが、ひとりぼっちの小学生のわしには大事な友達になったんだ。

 これが「謎の未確認動物」といわれているヤツだろう。

 正体は分からん。

 でも友達だ。おかずを取っておいて、あいつによくあげたもんだ。

 何度見ても何だか分からなかったが、あいつはあいつとして、受け入れたし、あいつもわしを受け入れてくれた。


 その後離婚した母親と一緒に暮らすためにこの村を出たが、寂しかった。唯一の友達と離れ離れになるのだから。

 また会いに来るなんて約束したが、新しい生活に慣れるのに精いっぱいだったし、慣れたら慣れたで楽しくて、山に来ることはなかった。

 この歳になって昔が懐かしくなって思い出したんだ。

 村に来たがやっぱり住みづらく、ここに住むことにしたんだ。

 昔とは違い、あいつはわしに近寄らない。

 あいつにとってわしは裏切り者だ。

 あいつがどこにいるか分からない。話を聞きに来る人は勘違いしているが、あいつはわしのペットではないからな。

 何回か見かけたが、結構大きくなっていたよ。

 今は食べ物をやってないよ、やっても食べん。全部あいつが自分で捕っているんだ。


 せっかく来てくれたのに大した話でなくて悪いなあ。

 道中気をつけてな。前にあんたみたいに来た兄ちゃんは、行方不明になってる。何人もな。

 ここから出て山を下って、麓の村人が見かけたのが最後で、そこから行方が分からないらしい。 あんたも気を付けて帰りな。


 そう言って見送った若者も、行方不明になった 。

 彼のスマホには彼が襲われた時の声と思われる叫び声が入っていたが、何に襲われたかは映っておらず、分からずじまいだった。

「謎の未確認動物」とその話を山に聞きに来て行方不明になる若者。

 なかなか興味を引く話題になる。


 きっと今回もこの行方不明の話を聞いて、自分は行方不明にならないと思っている若者がわしの話を聞きに来るだろう。

 わしがここに住んでいる限り、若者がまた訪ねてくるだろう。

 わしがここに住んでいる限り、あいつはエサに困らない 。

 だからわしはまだ生きている。

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