第3回「エイル&クロノヒョウコラボ企画」(1273文字)

 嘘をついたら罰が当たる

 今日、ピアスを買った。

 今日は特別な日になるから、記念品が欲しかったの。

 午後の彼とのお出掛けが、すごく楽しみ。


 三時の待ち合わせ時間に三十分遅れて来た彼を、後部座席に乗せる。

 助手席に乗ろうとした彼を、運転に集中したいからと断って後ろに追いやる。

 助手席に置いたエコバッグの中からポップコーンとお茶を取り出し彼に渡すと、すぐに食べ始める。

 

 彼はポップコ-ンが好きで、スナック菓子を買うときはポップコーンを選ぶ。

 食べている姿を可愛いと思ったこともあったが、今は食べ方の汚さの方が目につく。こぼさないで。


 それに当然のように食べているけど、私が買ってきたのよ。

 お金を出したこと、一度もないわよね? 払うそぶりを見せたことすらなかったわよね。

 それなのに「正月休みは温泉に行こうよ。雪見酒なんて、いいよな」なんて、どの口が言うの。私にたかる気よね。何回も繰り返して、私が根負けするのを待っているのかしら。

 私が予約して、私が支払って、私が誘ったから仕方なくついていく。

 そういう形に持っていきたいって、もう分かっているのよ。


 今までに貸したお金、すぐ返すって言っていたお金を返してくれるなら、旅行のこと考えてもいいけどね。

 ああ、無理か。返す気なんてないのよね。

 しかも、他にも女がいるのよね。

 友だちとの会話は気を付けた方がいいわよ。誰が聞いているか分からないのだから。


 後ろで飲み食いしている男のバカさ加減に呆れる。

 付き合っている女の気持ちが、何が月も前から変わっているのに気が付かないなんて。

 そんな女の言うことを信じるなんて、本当にバカ。


「知る人ぞ知るトウモロコシ農家がいるんだって。おいしいポップコーン用のトウモロコシを売ってるんだって」


 これを信じるとは思わなかったわ。他にもまともな口実を考えていたのにね。

 でも、こんなバカに引っかかった私の方がバカだわ、腹立たしい。本当にイライラする。


 一時間ほどで高速道路を降り、一般道、そして山道に入る。

 この山道に、車は入ってこない。

 二十一回通ったが、一回も見たことがない。


 目的地の近くで車を止めて後ろを見ると、彼は寝ていた。

 車の揺れが心地よかったのか、睡眠改善薬が効いたのか、どちらかは分からないが、静かにしてくれてありがとう。


 声を掛けると寝ぼけた声で返事をしたので、完全に目を覚ます前に終わらせないといけない。

 彼を車から降ろし、おぼつかない足取りの彼を支えて歩く。

 準備のため彼から離れようとしたら彼は座り込んでしまった。そこがちょうどいい位置で笑ってしまう。

 レインコートを着て軍手をはめる。

 見繕っておいた石を両手で掴む。

 彼に近寄るが私に気付かない。寝てしまったのかもしれない。

 石を持ち上げ、振り下ろす。

 痛みでうめいていた彼が静かになった。

 永遠に寝てくれたようだ。


 掘っておいた穴に彼を落とす。

 穴を掘るのは大変だったが、いい感じに埋められそうだ。

 埋め戻す前に、やることがあるわ。

 最期に彼の望みを少しでもかなえてあげましょう。


 彼の口に日本酒を入れる。

 そして彼の上で新しいポップコーンの袋を開ける。

 雪じゃなくてポップコーンが降り積もった。

 



 

 


 

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