第4話 クズ王にドロップキック!

(先程、3話目の内容が2話目と同じというミスが発覚しました。2話と3話が同じ内容だった。という方はお手数ですが3話目から読んで頂けると助かります)



 深いスリットの入ったロングスカートに背中の空いたセクシードレスを身にまとい、俺はパーティー会場へ舞い戻った。


 身長は男並、男の背中、男のふともも。


 違和感マックスで誰もが俺を避ける。

 正直、最初からこの格好なら会場までストレートに行けたのではないかと思うぐらいスムーズだ。


 海を割るモーゼのように人垣を割りながら、俺は父上のもとへ向かった。


 それから、このドレスの持ち主の言動を思い出しながら完コピした。

「ねぇ、ちょっと王さまぁん」


 俺が甘えた声を出すと、父上は顔を上げてハッとした。

「な、なにかなお嬢さん? 息子ならいま探させているが」


「ううん、そうじゃないの。王様けっこうイケメンね、タイプよ。ねぇ、ちょっとパーティーを抜け出さない?」


 俺は体にしなを作りながらウィンクをひとつ。

 それだけで父上は口角を上げて目じりを下げた。

「ぐふふ、わしもまだ捨てたものではないな。よし行こう」


 ――よっしゃ釣れた!


 思った通り、父上は頭もファッションセンスも悪い上に女の趣味も悪かった。というかストライクゾーンが広すぎた。悲しい。


 父上は俺の手を取りにぎにぎもみもみしながら会場の外に連れ出した。情けない。


 俺は、会場施設内の二階、休憩室へ連れ込まれた。

 ――計画通りに進めば進むほど虚しくなるのは気のせいじゃないよね?


「ぬふふふふ。それではお嬢さんさっそく」


 窓を背に振り返った父上は、ひわいな腰つきで両手の指をわきわきと動かした。


 虚しさが一周して、怒りが湧いてきた。


 俺になんの断りもなく勝手に妃を選ぶとか宣言して、俺が逃げても自分で探そうともせず、若い女にうつつを抜かして、俺の女装にも気づかず部屋に連れ込む。


 父親の最低ゲス野郎ぶりに、マグマのように熱い怒りと永久凍土のように冷たい憎しみが湧いてきた。


 実の父とは言え、もはやこのクズに対する慈悲の心は一辺も残ってはいなかった。


「その前に陛下、見てください。星が綺麗ですよ」


 俺が窓を開けてベランダへ出ると、父上は明かりに誘われる羽虫のようにふらふらと近寄ってきた。


「確かによい星だな。はっ、待てよ。ここで誰かに覗かれるのではというドキドキ感と背徳感の中でするのも、そうか、息子たちはだから、くっ、今なら息子たちの気持ちがわかる!」


 父上は握り拳を震わせながら涙をにじませた。


 ――いやどこに共感しているんだよ。


 まさにこの親にしてあの兄あり。

 変態性を欲しいがままにしながら兄上たちに共感する父上をその場に残して5メートル距離を取る。


 それから、俺は助走をつけてその背中目掛けてドロップキックをかました。


「沈めぇ! 俺の幸せのために!」

「おぎゅぴぃっ!」


 父上はベランダの手すりを乗り越え、二階から地面へと落ちた。

 庭の生け垣がへし折れる音と、聞いてはいけない鈍い音がした。

 俺は、全力でその場から走り去った。



   

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