第3話 眠れぇえええ! 王子の痛恨の一撃が炸裂した!

 練兵館に連れていかれた俺は、他の衛兵たちに混じって槍を振るわされた。


 ――こんなことをしている場合じゃないんだけどなぁ……。


 いつ姫たちに見つかるかわからない状況を考えると、一秒でも早く父上を亡き者にしてパーティーを中断させたい。


 すると、これが噂をすれば陰という奴なのか、姫たちの声と暴れ馬のような足音が聞こえてきた。


「ここで王子そっくりの衛兵を見たって聞きましたわ!」

「貴方がた! 王子をかくまっているんじゃないでしょうねゴルァ!」


 ゴブリン並みの理性しか持たない姫たちの突撃と邪悪な波動に、俺は背筋を震わせた。


 ――まずい。いま捕まったら俺とレティとの明るい未来が!


 レティとの結婚生活を夢想すると、彼女との思い出も一緒に浮かぶ。


 いつも優しかったレティ。

 王位継承権なんて無いに等しい第五王子の俺をバカにしなかったレティ。

 俺が兄上たちをこっそりと社会的に亡き者にして跡継ぎになった時、みんなが手の平返しをする中、逆に身を引こうとしたレティ。

 (俺は悪くない。兄上たちが変態プレイにいそしんでいる部屋のカギを開けといただけだ)


 レティとの未来を守るため、俺は逃げの一手を打つ。


「む、貴様どこへ行く?」


 けれど、空気の読めない指導員に見とがめられてしまった。

 今、姫たちは衛兵たちを恫喝しているけど、こっちに来られたらバレてしまう。

 迫る指導員への言い訳と逃亡方法を必死に考え、俺はあるアイディアを絞り出した。


「指導員殿、ちょっとお耳を」

「なんだ?」

「実は先程、王子がパーティーから逃げ出したと騒ぎがありまして」

「そうなのか?」

「はい。それでここへ来る途中、王子の姿を見ました。王子をパーティー会場へ連れて行けば、陛下の覚えもめでたくなるかと」

「ふふふ、それもそうだな。よしお前、その場所へ案内しろ」


 そうして、俺は悪い顔をした指導員と一緒に練兵館の裏口へ向かった。

 そして、


「眠れぇ!」

「ぼぎゅびぃっ!」


 槍の柄頭で、指導員の脳天に痛恨の一撃を叩き込んだ。


 だらしなくよだれを垂らしたまま床に倒れ伏し動かなくなった指導員から上級軍人の軍服を脱がせると、俺は着替えた。


 これで、パーティーホールへ行けるはずだ。


 指導員はパンイチだけど許してくれ。これも俺とレティの幸せためなんだ。


 心の中でコンマ一秒の黙とう(まだ死んでない)を捧げてから、俺は練兵館を後にした。



   ◆



 上級軍服のおかげでパーティー会場に戻った俺だけど、ちょっと困っていた。


 父上が貴賓席に座ったまま動かないのだ。


 息子がいなくなったと言うのに、パーティー会場に集まった女たちを眺めるのに夢中らしい。


 だから母上のいない時期にパーティーを開いたのか。ずるい奴め。


 ――パーティー会場で堂々と父上を亡き者にしたら俺が犯罪者になってしまう。合法的に始末するには、どこかに連れ出さないと。


「ねぇ、ちょっと軍人さぁん」


 声に振り返ると、そこにはスカートの大きなスリットの入ったセクシーなドレス姿の姫が立っていた。


「はい。なんでしょうか。王子の行方なら存じませんが」

「ううん、そうじゃないの。貴方けっこうイケメンね、タイプよ。ねぇ、ちょっとパーティーを抜け出さない?」


 姫は体にしなを作りながらウィンクをひとつ。どうやら俺を誘っているらしい。


「いえ、私は」


 そこで、俺に天啓が舞い降りた。


「そうですね。ではさっそくあちらで」

「あら話が早くて助かるわ」


 俺は彼女と会場を出ると、廊下の奥のトイレに連れ込んだ。


「うふふ、それで軍人さん、私のことをどうやって――」

「眠れ!」

「きゅんっ」


 彼女の首にチョップをお見舞いして気絶させた。

 意外にも可愛い、小動物のような声を上げて意識を失った彼女のドレスを脱がせて着替える。

 メイドに続き、女装パート2だ。


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