第2話 脱ごう! メイド服を!
メイド服の効果は抜群だった。
エントランスへ向かう途中、何人もの姫たちとすれ違うも誰も気づかない。
顔は同じなのに服装が違うだけでこのありさま。
計画通りで嬉しい反面、みんな俺のことなんてどうでもいいんじゃないかと、ちょっとふてくされてしまう。ちぇっ。
やっぱり、結婚するなら、お忍びで城下町に遊びに行った浮浪者姿の俺を一目で見つけてくれたレティだ。
彼女への思いを募らせている間に、本殿の広いエントランスに着いた。
――よし。あとはここを抜けてパーティーホールへ行けば……。
「おい貴様、メイド風情がこんなところで何をしている! 目障りだ!」
「へ? あ、はい!」
怒鳴ってきたのは、通りすがりの貴族文官だった。
正体を隠している俺はわけもわからず、反射的に頭を下げて廊下に引っ込んだ。
「な、なんだ、俺何か変なこと、あっ」
思い出してポンと手を打った。
使用人であるメイドは、王族貴族の出入り口である正門エントランスを使ってはいけないのだ。
メイドが入ってもいいのは、誰も起きていない早朝の掃除時間のみだ。
「レティの服じゃここを通れない。でも今から裏門に回ったら時間がかかる。他の服に着替えないと」
貴族の服じゃ俺だとバレる。
俺だとバレず、ここを通れて、なおかつメイド服で出入りできる場所でも調達のできる服となると、衛兵の軍服か執事服だろう。
次の作戦を決めると、とある場所へ一目散に駆けた。
◆
「お疲れ様であります」
「うむ、ご苦労」
あれから、メイドたちの使う洗濯室に忍び込んだ俺は、洗濯カゴから衛兵の軍服を拝借した。
軍服の効果は抜群で、姫も貴族文官も敬礼をすれば俺だとは気づかなかった。
悠々とエントランスを抜けてパーティーホールへ向かうと、俺は出入口の衛兵に敬礼をして中へ入ろうとした。
「お疲れ様であります」
「ん、何だお前は?」
「え?」
思いもよらない返答に、変な声が漏れた。
「まだ交代の時間じゃないだろ? それにホールの警備は上級衛兵の担当だ。お前何しに来たんだ?」
「え、いやぁ、それは……」
肩の階級章を確認した。
――まずい、俺の軍服は下級衛兵のものだ。これじゃホールに入れない。
俺がまごついていると、偉そうな声が割り込んできた。
「おい貴様ら、何かあったのか?」
「これは指揮官との。いえ、こいつが下級衛兵なのにホールへ入ろうとするものですから」
「何? そうか、さては仮病で訓練をサボッたというのは貴様だな。さっさとこっちへ来い! 根性を叩き直してやる!」
「え? えぇ~!?」
指揮官は俺の正体にも気づかず、俺の手首をつかんできた。
――そうだ。いっそ王子だって明かせば意外と味方になってくれるかも。
が、背後から姫たちの声が聞こえてきて、俺は脱ぎかけた軍帽をかぶり直した。
今ここで正体を明かせば、姫たちに捕まってしまう。
結局、上手い断り文句も思いつかず、俺はされるがまま、指揮官について行くしかなかった。
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