第7話 裏庭

 私は彼氏に電話を掛けた。体ががくがくと震えていた。

「お父さんを殺しちゃったの」

 すると彼はすぐに駆け付けてくれた。


 そして、シャベルでテキパキと庭に穴を掘ってくれた。

「このまま埋めると、洋服で足が付くかもしれない。服脱がせよう」

「うん」


 私たちはお父さんを裸にした。

 当たり前だけど、お父さんのアソコはもう勃たないし、しぼんだままになっている。その光景が強烈に脳裏に残っている。彼氏はどう思っただろうか。彼女を弄んだ男が目の前で裸で横たわっている。


 私たちはお父さんを穴まで引きずって行って、一緒に埋めた。私はお父さんの服を切り刻んでゴミ袋に入れた。そして、風呂に入って、血を洗い流した。

 私は彼氏に感謝した。父がここに来ていることは誰も知らない。だから、バレっこない。彼にもそう言った。


「絶対、バレないよ」

 

 でも、それっきり、彼氏に会うことはなかった。私は捨てられたのだ。電話しても居留守を使われ、学校で待ち伏せすると、シカトされた。もしかしたら、私といたら自分もお父さんのようになると思ったのかもしれない。私は彼氏を忘れられなくて、1年以上付きまとっていた。彼の家の前で、一晩、待ったこともある。16になったら、結婚を申し込んでくれるかと思ったが、それもなかった。


***


「お客さんで行方不明の人がいるんだよ」

 ある時、母は言った。

「3年くらい前に、急にいなくなったんだって」

 私はドキッとする。お父さんじゃなくて、お母さんのお店の客だったんだ。

「うちにもすごい昔に来たことがあるんだよね。お前もなついててさ、お父さんって呼んでたんだよ。正川さんていう人で・・・覚えてないよね」

 いいえ。その人知ってる。私は心の中で嬉しくなった。やっと、お父さんが誰かわかったんだから。背広のポケットに財布が入っていて、免許証があった。名前は正川さんだった。


***


 庭にはずっと死体があったが、その家は持ち家だったから庭を掘り返されることはなかった。


 だから、今もその家には死体がある。白骨化しているけど、工事の人が発見したら多分、警察に届けるだろう。それが怖くて、私は家を放置している。田舎だけど売ったらそれなりの金額になるだろうし、今でも時々売ってくれという連絡が入る。私は遺体が見つかるのが怖くて応じないでいる。


 母は公営住宅で独り暮らしをしている。もう何年も会っていない。生活保護を受けていると聞いている。持ち家で生活保護を受けられないと思うが、どうしてかはわからない。


 私は彼氏と別れた後は、高校を中退して16くらいから水商売を始めた。2回結婚して子どももできたけど、施設に預けた。母のようになりたくなかったからだ。


 時々、元カレのことを思い出して、誰と結婚してるのかなと思う。彼の奥さんは、新築の家を建ててもらって、働かないで子どもを育ててるんだろうな。羨ましい。時々、彼を見に行きたくなるがやめる。また、ストーカーしてしまうかもしれないからだ。


 ***


 彼のお兄ちゃんがお客さんとしてお店に来たことがある。私は「弟さんどうしてますか?」と尋ねた。すると、精神を病んで自殺してしまったということだ。遺書には彼女に頼まれて「人の死体を埋めた」と書いてあったそうだ。その男が毎晩やって来て、苦しいから出してくれと訴えて来るが、警察に言ったら、家族に迷惑がかかるからできない。自殺してすまなかった、と綴られていたとか・・・。


 

  


 

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一人暮らしの子ども 連喜 @toushikibu

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