第6話 彼氏

 私の彼氏は隣の学区の中学生で2個上だった。ヤンキーで馬鹿だったけど、性格がよかったし、やりチンみたいなタイプじゃなかった。私は彼氏に今までのことをすべて話した。すると、これからは俺が守ってやると言ってくれた。


 彼氏の親は建設会社の社長で金持ちだった。言ってみれば、彼は苦労知らずのお坊ちゃんだったが、その分優しかった。出かける時はおごってくれるし、プレゼントもくれる。家に遊びに行ったこともあるけど、ちゃんと自分の部屋があった。ご両親も明るくて感じがよかった。私が16になったら結婚しようと言ってくれていた。彼氏は高校卒業したら、親の会社に入ることが決まっていたし、私も働かなくてもいい生活を送れると言われていた。

「結婚したら、ゆっくり子ども育てればいい」

 彼氏のお母さんが専業主婦だったから、それが当たり前なんだろう。実家が建設会社だから、家も建ててくれるそうだ。まあまあイケメンだったし、本当に白馬に乗った王子様だった。私は浮足だっていた。


 家には母がいて、時々男を連れ込んでいる。その時はさすがに居づらいから、私は外に出る。母はその頃はまた水商売の仕事を再開していた。しかし、もう40歳近くて、あまり稼げなかったらしく、足りない分は売春で補っていた。私はあと2年で家を出る。高校は全員入れるバカ高校に進学して、16で結婚するんだ。結婚したら中退するつもりだった。


 私は母が仕事に出かけている夜、一人で家にいた。

 すると玄関のノックする音がする。 

 やはり、一人で家にいえるのは怖かった。


 彼氏とはさっき電話で話したばかりだ。誰だろう・・・。恐る恐る戸を開けると、父が立っていた。


「久しぶりだな。いつもお母さんがいるから入って来れなかった」

 父は言った。

「もう来ないで」

「そんなつれないこと言うなよ」

 そう言って、手に持っていたスーパーの袋を手渡した。安いお菓子や食品が入っている。せいぜい3,000円くらいの買い物だろう。もう、贅沢を知った後では、そんなものには価値を感じなくなっていた。

「いらない」

「せっかく買って来たんだから受け取れ」

「いい。早く帰って」

「何言うんだ」

「あんた、お父さんじゃないんでしょ?」

「お父さんだよ」

「お父さん、もう死んだってお母さん言ってたよ」


 男はいきなり私に襲い掛かって来た。床に押し倒されると着ていたTシャツを捲り上げた。やる気満々でやって来て、門前払いを食らわせられたら、かっとなるのもわからないではない。

「やめて!」

 私は嫌悪感を感じて、必死に抵抗した。もちろんやめるわけない。男は暴れないように、私の顔を何度も殴った。私はカッとなって、無意識に、傍にあったハサミで父の首を刺した。洋裁用の刃先がとがったやつだったから、血が一気に噴き出した。まるで、ホラー映画のようにわざとらしかった。でも、それが現実なんだと私は我に返った。血が天井まで吹き上がる。


 父は出血を抑えようとしていたけど、私はわざと手を引っ張って血を流させるようにした。

「助けてくれ。救急車呼んでくれ」

 父は懇願したが、私は黙っていた。そのうち父は倒れて動かなくなった。


 



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