【6】

 少女は目を覚ました。

 頭がはっきりと覚醒しきるまでの間、キィキィという、笑い声のような奇妙な耳鳴りが、悪夢の残響のように聞こえたが、すぐ消えていった。

 相変わらず、まっしろな部屋。

 すっかり癖になった空腹感と全身の疲れ。

 少女は立ち上がり、ここから逃げ出すためにどのドアを選ぶべきか、思案した。


 少女は、いくつかのドアを慎重に開け、部屋にあるもの、例えば機械や箱や人形など、に不用意に触らないように注意しながら、出口を探した。

 少女はおびえていた。

 ゆがみ顔の存在だけではなくて、この場所そのものが、何者かが、おそらくはゆがみ顔の、悪しき意図を持って作ったように思われてならなかったからだ。

 その証拠に、少女は部屋から部屋へ進む間に、いくつものおそろしい罠を発見した。

 その多くはドアの付近に仕掛けられていて、ドアを開けた者の命を脅かすように意図されているのは間違いなかった。

 注意してきたが、小さな傷はいくつか負ってしまった。

 空腹だけではなく、ドアを開ける恐怖もまた、少女の心の安定をじわじわ蝕んでいった。


 少女は、ゆっくりと、罠を警戒しながらドアを開けた。

 ドアそのものに罠はないようだった。が、彼女の目は、部屋の中で何かが蠢くのを見た。

 それは黒くて丸い塊のような何かで、ドアが開く音に反応したように、のそりと動き、立ち上がった。

 それには手足があった。それには顔があった。

 歯があり、鼻があり、そして、2つの大きな眼球と、少女は目が合った。

 少女は固まってしまった。

 動くものを見るのは、ゆがみ顔以来だったからだ。

 4つの足で完全に立ち上がったそれは、少女の倍ほどの大きさがあった。

 その「4つ足」は、猛然と少女に飛びかかった。

 少女は急いでドアを閉めようとしたが、まったく間に合わなかった。

 床に押し倒されるまでのわずかな間に、少女は喉の動脈を噛み切られていた。

 それは少女の死が避けられないことを意味したが、意識がなくなるまでにはしばらく時間があり、その間、少女はほとんど抵抗できないまま、4つ足の鋭い歯たちが自分の肉を引き裂き、噛みちぎっていくのをまざまざと感じた。

 少女は4つ足に食べられてしまった。

 少女は死んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る