【2】
少女は目を開けた。
何かおそろしいことがあったような気がしたが、身体には、何の異常もなかった。
そこはいつもと同じまっしろな部屋で、自分は粗末なマットの上で、しばし浅い眠りに身を沈めていたらしい。
しかし眠りでは、空腹は満たされない。
床に散らばる白い箱をひとつひとつ奥まで覗き込むが、チリひとつ、入っていない。
最後にゆがみ顔を見たのがいつだったのか、思い出せない。
もしかすると、自分のことは忘れてしまったのかもしれない。
少女は立ち上がった。
今こそ、勇気を振り絞るべき時だった。
少女は目を閉じ、ぎこちないバレリーナのように闇の中で踊り、自分が選ぶべきドアを運命に委ねた。
最初のドアを、少女は慎重に開けた。
ゴトリ、と音を立てて、新しい世界が開いていく。
完璧な正方形の、まっしろな部屋。
あるのは白灯、通気口、四方の壁それぞれにある4つの黒いドア。
それから、床に見慣れぬ「人形」が落ちていた。
床にはそれだけが、誰かが置き忘れたかのように、孤独にあった。
少女のうつろな双眸に、しばらく人形は映り続けた。
理由はわからないが、それはあまりよくないものであるような気がして、少女は目を背けた。
しばらく迷った末、少女は別のドアを開けてみることにした。
直感に従い、4つのドアのうち、これだと思ったもののドアレバーを握る。
ゴトリ、という音。
少女は、なぜだか嫌な予感がして、ことさら慎重に、その向こうをうかがった。
何事も起こらなかった。
ドアの向こうには、またもや、まっしろな部屋があり、4方向につながるドアがあった。
床には何もなかった。
これはいったいどういうことなのだろう、と少女は空腹で集中できない頭で思案した。
どこまで行っても、同じ部屋があるだけなのか?
少女は床を大股で歩き、もはやほとんど躊躇せずに向かって右のドアを開けようと試みた。
しかし、開かなかった。
開かないドアもある、と少女は知った。
ふと、思い立って、少女はさっき自分が入ってきたドアを開けようとしてみた。
開かなかった。
いったいなぜだろう?
一方通行で、一度閉まったドアは、反対側からは開かない仕掛けになっているのかもしれない。
少女は何かを試されているような気分になりながら、今度は、向かって正面のドアを選んだ。
ゴトリ、と音が鳴った。
そして、またもやまたもや、まっしろな部屋が少女を出迎えた。
床に奇怪なものがあった。
少女が一度も見たことがないもの。
それは、一抱えほどの大きさもある「機械」だった。
青く神秘的な艶めきをもつ表面は、細かな回路でびっしりと埋め尽くされており、全体が意味ありげに点滅している。
興味を引かれた少女は膝を折って座り、どうにか、それから反応を引き出せないかと、指を触れさせた。
あちこち、出っ張ったところを押しまくった。
突然、機械がうなり声をあげ、周囲に熱線がほとばしった。
少女は立ち上がる暇もなく、身体を熱に焼かれ、気道から肺まで一瞬で焼き尽くされ、息を失った。
少女は死んだ。
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