第47話 帰宅

「ただいま」

「アンタ、無事だったの!?」

「ああうん……ぐぇ」


 家に帰るなり、母親に抱きしめられた。息ができない、むごご。


「よかった……! 騒動を聞いて、アンタになんかあったらって……!!」

「あ、ありがとう……ぐるしい」

「ご、ごめんね。それでやっぱりお母さん、冒険者になるのは――」

「なるよ」


 母親の言葉を遮って、俺は言う。これは絶対に変わることのない、俺の意思だ。


「そう……こんな思いをするなら、私は冒険者になんかなってほしくないけど……意思は硬いのね」

「うん……ごめん」

「――いいのよ。男の人っていつもそうね。お父さんもそうだった。だから、一つだけ、約束をしてほしいの」

「何?」

「何があっても、どんな困難に苛まれても、強大なモンスターから逃げても、冒険者の責任からは逃げないで」

「冒険者の、責任」


 それが何を指しているのか、正直俺にはよくわからなかった。


「お父さんはいつも言っていたわ。『冒険者において最も重要なものは、責任から逃げないことだ』って。最初、この人は何を言っているのかわからなかったわ。きっと、アンタもまだわかってないでしょうね」


 母親は、一呼吸を置いて続ける。


「いつかきっと分かる日が来る。それまでは、心に留めておくだけでいい。それだけでも、母さんは満足よ」

「……わかった、覚えておくよ」

「よし、それじゃアンタ、お風呂入ってきなさい。すごく汚いわ」

「息子に掛ける言葉かよ」


 言って、俺は自室へ向かった。ひとまずは母親の言う通り、荷物を部屋においたら風呂へ入ることにする。



「……なんでじぃさんがいるんだ」

「はっは、悪いかの?」

「いや……まあいいや」


 風呂場へ向かうと、すでにじぃさんが湯船に浸かっていた。アンラッキースケベだ。


「……傷だらけだな」

「え?」


 湯船のお湯を桶ですくっていると、じぃさんに話しかけられた。確かに、言われてから全身を確認すると、体中に傷ができているのが分かる。今の今まで痛みなどなかったから、気が付かなかった。


「痛くないのか」

「あぁ……うん」

「よくないな」

「……?」


 何を言っているのかよくわからない。痛みがないことの何が良くないのか。


「痛みを感じないと、引き際を間違える。冒険者にとって、引き際の見極めは最も重要なことだ。もしこの先、今回と同等以上の戦闘があったなら……気をつけると良い」


 言い切ると、じぃさんは湯船から上がり風呂場から出ていってしまう。何かを言う余裕などなかった。


「あ、ありがとう……?」


 じぃさんが出ていった扉に向かってその一言だけが出た。


 今日の家族は、なぜか俺に意味深な言葉をかけてくれる。残念ながらその言葉の真意の殆どはわからないが。


「まぁ、応援されてるってことかな……」


湯船に肩まで浸かって、そんな言葉が漏れ出た。

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