第46話「冒険者になります」
四人で先生の亡骸を連れてやって来たのは、学校。たどり着くとそこにいたのは、この街のギルドマスターであるマオ・スターさんだった。学校の入学式にもいたし、その屈強な体つきと鋭い眼光は印象的だったので覚えている。
「そうか。ユレインは、身を挺してキミたちを……」
「……はい」
事情を説明すると、スターさんは残念そうに先生の亡骸を見つめ、小さく黙祷を捧げた。
「どうして、応援を送らなかったんですか」
黙祷が終わったところで口を開いたのはヒガさんだった。
「キミ、名前は」
「……失礼しました。ヒガ・バルカと言います」
「バルカ、キミが……。応援は送ろうと思っていた。しかしながら、実はそのモンスターの出現と同時に【
申し訳ない、とスターさんは頭を下げる。って、
「待ってください、その【
「あぁ……そちらの方はなんとか片付いた。そしてこれからそちらへ応援を向かわせようとしていたら、キミたちが来た。というわけだ」
「そんな……もっと、もっと……」
ヒガさんがうわ言のようにつぶやく。もっと強ければ。それはおそらく、あの場に居合わせた全員が同じ思いだったはずだ。
もっと強く、誰かを守れるように。誰かを助けられるように。なりたい。
「キミたちの悔しさはわかる。ユレインは最期に、なんと」
「私たちに、世界を旅しろと」
「……そうか。あいつらしい言葉だ。実のところ、キミたちの話はたまに聞いていてな。あいつはどう育てたらキミたちをSランク冒険者にできるか、と度々私に尋ねていた」
先生がそこまで俺たちのことを考えていてくれていたなんて、知らなかった。
「あいつが言うには、キミたちは『波乱の子』らしいぞ。行く先々で波乱に巻き込まれ、そのことごとくを解決する。あいつの言葉はだいたい当たる。覚悟をしておいた方がいいな」
「ははは……」
これ以上の波乱はないで欲しいな、と思わずにはいられない。誰かが死ぬのはもう見たくはないから。
「冒険者であるならば、死と隣り合わせと考えろ。今日あった出来事は、冒険者の世界において全くイレギュラーなことではない。才無き者はそれを忘れてしまう」
「……」
重々しい口調で——まるでいつかのだれかを思い出すように——スターさんは言う。
それはもしかしたら俺たちへの忠告と同時に、自分への戒めだったのかもしれないし、慰めだったのかもしれない。
どちらにせよ、半端な覚悟のままでいるとまた失うことになると言うことを俺たち全員が思い知らされる、そんな言葉だった。
「さて——キミたちに、失う覚悟はあるだろうか。失い歩き続けた先に何が待っていようと、受け入れられる覚悟が」
『……』
すぐには、答えられなかった。
まだ俺たちは見習いで、これから対峙する物がどのようなものかわからないから。
それでも、これだけは言える。
「俺は冒険者になります。その意志だけは変わりません」
これは他のみんなも同じようで、一様に頷いた。
「そうか……なら、私は何も言わない。さぁ、今日は色々あって疲れたろう。帰って家族の無事を確認してきなさい」
スターさんはそう言うと、一瞬にして消えた。
先生の遺言も、予言も、これから出会う出来事も予測はできないが、強くならないといけないのは確かだ。
「もっと……強くならないと」
志を新たに、俺たちは一度解散した。
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