第41話 VSオーガ

 オーガ。二本の角を持ち、その体躯は一般的な成人男性よりも二回りも大きい。怪力を持ち、並の剣では刃が立たない。

 人並みの知能を有しており、人語を介すことはないものの、集団戦を得意とする。

 単体性能としての危険度はCランク。

 集団戦の場合の危険度は――Aランク。


 敵は三体。こちらも三人。数は互角、エイプキングのときのように武器の刃が通る可能性もある。


 ――頭の中で、冷静に状況を確認。


 確実性の高い必勝法を立案。


 実現可能かを再確認。


 行ける。


「ヒガさん、【ウェポン・エンチャント】と、身体能力を向上させる魔法をダーケさんに」

「メズくんには?」

。ダーケさんに全力を注いでくれ」

「――わかったわ」

「わ、わたしは……」

「ダーケさんと俺で、オーガを倒す。俺に能力向上の魔法はいらない――いくぞっ!」


 確認をしてから、オーガの群れへとダーケさんと俺が突っ込む。


「――【ライズ】!」


 響くのはヒガさんの声。


「「【フィジカル・エンチャント】」」


 今度は俺とヒガさんの声が重なる。


 練習した魔法は、たしかに俺の身体能力を向上させる。


「「【ライジング】」」


 重ねがけされた身体能力を強化する魔法は、打ち消し合うことなく両立した。


「ヒガさん、武器の強化を!」

「了解!――【エンハンド・ブレイド】」


 俺の両手剣と、ダーケさんの双剣、計三本への強化魔法。

 オーガが目前に迫る。

 三、二、一……間合いに入った。


「「【ステップ】」」


 俺とダーケさん、同時に間合いに入った二人は、勢いそのままに相手を上下で一刀両断にした。


(予想通り、ヒガさんの強化魔法があれば、硬い皮膚でも切り裂ける)


「さぁ、残るは一体だ」

「させない――【ストロング・アーマー】【インクリース・エフェクト】」

「ウゴオオオオオオォォォォッ!」


 リンによって強化魔法を施されたオーガが、雄叫びを上げる。


「三人とも、ごめん!油断した!」

「問題」

「なしっ!――【キロフレイム】!」


 俺たちに魔法を施したあと、魔力を練り上げる気配をずっと後ろから感じていた。

 巨大な火球が勢いよく、俺とダーケさんの間を抜けオーガへと迫る。


「アァァァアァアアッ!」


 間違いなく直撃した火球はそれでも、強化を施されたオーガには通じていなかった。


「ダーケさん、頼む!【バーサーク】を!」

「……――わかりました。はああああああああああああああぁぁッッ!」


 ダーケさんの攻撃が激しくなる。

 相手に防御の隙を与えない。

 しかしながら、力の問題ではなく、武器の問題なのか、傷があまりついているようには見えない。


 ただの武器じゃ傷つかない。

 ただの魔法じゃ通らない。


 なら、どうするべきか。


 ――両方を、


 ふっと、導かれるように考えが浮かんだ。


 感覚的にわかる。俺にはそれができる。

 ヒガさんに魔法の使い方を教わったときの言葉を思い出す。


『【速攻魔法】は魔力をそのまま使うけど、【詠唱魔法】は魔力を杖を介して膨張させる。だから、似たような魔法でも【詠唱魔法】の方が威力が上がるの』


 俺の知りうる中で、使える中で最も有効な【詠唱魔法】。


 それを、剣に魔力を流し実現する。

 ただ放つだけじゃだめだ。

 剣に纏わせる。


 魔力を剣へと流し、詠唱を完了させそれを実行する。


「――【キロ・フレイム】」


 ぴしり、と両手剣の刃がかける音がした。


(今だけは耐えてくれ)


 今まで散々無茶な扱いをしてきた相棒に、最後の願いを託す。

 纏わせ続けるだけで魔力を思い切り持っていかれるのがわかる。


「代われ、ダーケさんっっっ!!……はああああああああああああああああああああああっ!」


【バーサーク】状態の彼女に声が届くかどうかなんて賭けだった。


 俺の【才能】の効果かどうか、真偽は定かでないが、確かにオーガの攻撃を弾き、隙を作った上で俺との入れ替わりを完了させた。


「ぐおおおおおおおおっっっ!?」


 がしゃん、と音をたて剣が燃え尽き崩れ落ちる。

 ただの刃では通らなかった皮膚に、確かにダメージを与えた。


 だがそれは、命を奪うに至ることはなく。


 またしても、格上に及ぶことはなかった。

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