第40話 援軍

「死んで」

「死ぬわけ無いじゃんっ!」


 止まらないナイフを、どうにか体を捻り、一撃で死ぬことは避けられた。

 私はすぐに後退して、リンとの間合いを取る。

 けれど、刺し傷は深く、勢いよく血が流れ出す。


「ぐっ……!」

「あぁ、残念。苦しむ道を選んだ」

「まるで諦めたら苦しませずに殺してくれるみたいな言い方だね」

「ううん、このナイフで殺したあと、持って帰って、蘇生してあげるの。そしてもう一度殺す。それを繰り返す」

「悪魔かな……!?」


 今軽々しく「蘇生する」って言った!?ほんとにやばい子じゃない!


「けど、一撃で死ななかったアナタは持ち帰らない。生き返らせても、苦しむ顔を見せない。知ってる?『死にたくない』って顔をしてるときに殺して生き返らせると、また『死にたくない』って言うの。きっと、死ぬ前の記憶を持ったまま生き返るんだろうね」

「ずいぶんと饒舌な上に、それなりに経験がお有りのようで……!」


 さっきまでもっと無口だったじゃないか、それが打って変わってあんな饒舌に。本当に恐ろしい。

 けど、お陰で少し時間が稼げた。


「――【マキシマイズ】」


 会話の間に練った魔力を使って、魔法を展開する。

 効果は、身体能力の大幅強化。長年使っているので練度も相まって、その効果は【最大打点級魔法アルテミック】の一歩手前まで踏み入れる。


「む」


 これで、傷を治すことはできないが、血が流れ出ることを止めることはできる。

 それに加えて、この状態ならあのエイプキングを殴り飛ばすこともできる。

 つまり今の私は。


「最強!」

「少し速くなった……面倒」


 私の最も得意とする近距離打撃インファイト

 リンの攻撃が見える。捉えられる。


「……ちっ。【ファスト】【ファスター】」

「なっ……!?」


 先程まで見えていたリンの攻撃が加速した。見えない。


「とっとと失せて……!」

「――――【キロフレイム】っ!!」

「っ!?」


 驚きの声は、私のものか。リンのものか。あるいはそのどちらもか。


 突如として現れた巨大な火球に、リンと私、おたがいに後退した。

 火球は、二人がいたところに勢いよく着地すると、ゴォウン!と激しい音を上げて爆ぜる。

 あとには焼け焦げた地面が残った。


「大丈夫ですかっ、先生!」


 声を掛けて駆けつけたのは、メズくん、ヒガちゃん、ダーケちゃんの三人だった。


(あぁ、なんてこと。来てしまったのね)


 そんな思いとは裏腹に、自分の気分が高揚していることに気がついた。

 嬉しいのだ。自分の生徒が大きく成長していることに。


「素晴らしい魔法だね、ヒガちゃん。【フレイム】のもう一つ上の魔法か」

「はい、私、魔法は得意なので――私たちはどちらを?」


 ヒガちゃんは素早く状況を把握したらしい。

 ずっと動かずにいる3体のオーガと、完全に計算外だ、といった表情を浮かべているリンに視線を送りながら私に問う。


「女の子は私が。それ以外は君たちに全部任せた!」


 言ってから、私はすぐにリンとの距離を詰める。

 作戦はきっと大丈夫、私はメズくんを信じている。


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