第39話 走馬灯

止まらない刃を前に、私の意識は過去へと飛んだ。あぁ、これが走馬灯というやつか。


「あ、ちなみに校内の見学って……」


人が死に直面した際、なんとか助かろうと過去のことを思い起こそうとすることで、走馬灯見る。という話を聞いたことがあった。

先程までいた場所から一転、血の匂いも、殺気も一切感じられない、いつもの日常にやってきた。

私に尋ねてきたこの少年は、メズ・ティテランタ。私の初めての弟子だ。

いや、このときはまだ面識がなかったか。


「すみません、それはできません。今日は授業こそ無いものの、掃除がありますので」


話しているのは私だが、思ったように口がきけない。

私が私の中に入って、私の記憶を追体験しているような、そんな感覚。


「わかりました。すみません、ありがとうございました」


そう言って彼は頭を下げる。そうだ、そうだった。

このときに私は、いづれ訪れるこの子の死を見たんだ。


「いえ、問題ないですよ。良い学校生活を遅れることを……なっ」


突如、私の頭の中にやってくる未来のメズくんの映像。

私の【才能センス】――【予見】の訴え。


その中で彼は、


為す術もなく。


誰の助けもなく。


ともに戦う仲間もなく。


現実では使うことができるようになった魔法を知らず。


立ち向かったその勇姿すら見届けられず。


ただただ、あっけなく。


その姿は、記憶にも記録にも残らない、ただの一般人と同じだった。


「な、なんですか……?」


眼の前のメズくんが、不思議そうにこちらを見ている。


「い、いえ……ちょっと忘れていたことを思い出して焦っただけです。では」


私は笑ってごまかして、密かに心に決めたのだ。


彼を死なせないようにと。

彼に、たくさんの仲間を与えてあげようと。


あぁそうだ。

だから、ここで負けちゃダメなんだ。


思い出した決意は、私の胸を焦がす。

眩しい光が視界を消した。

瞬間、目の前に現れたのは、現実。

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