第36話 うっさい

「ラドルさん……勢いのまま出てきたけど、どこにいるんだろう」


次の試合までもう時間もない。試合が終わったあとに探すことにしようか。


「うわぁぁぁぁぁああああああっ!?」

「きゃあああああああああっ!」


突然、試合会場の方から人々の悲鳴。

同時に訪れる、激しい地響き。


「逃げろおおおおおおお!!」

「どけっ!!」


悲鳴とは一瞬だけ時間をおいて、試合会場の方から観客たちが逃げるように俺とは反対方向に走っていく。

逃げていく人たちの中には学校で見かけたことのある人物もちらほら。


「あのっ、なにがあったんですか!?」


なんとか一人捕まえて、何が起こったのか聞き出す。


「ば、化け物が!S級モンスターが出たんだ!」

「S級!?」


ここ周辺出るS級モンスターは存在しない。

強いて言うのなら、『大森林』の奥地に生息するモンスター……まさか、エイプキング!?


「おい、お前もこんなところにいないでとっとと逃げるぞ!あいつはそこらの冒険者や見習いじゃ勝てっこねぇ!」


俺の手を引いて、一緒に逃げようと迫ってくる。

だが、引っ張る力よりも強い力で、俺はその手を引き離した。


「俺は冒険者になる男です。ここで逃げちゃ、ダメだ」

「バカ言ってんじゃねえ!お前さん、見たところここの学校の生徒だろ!?なんだよ、そんなすげえ【才能センス】でも持ってんのか!?」

「うっせぇ!」


この学校に来てから、ずっとだ。

才能、才能、センスセンスセンスセンスセンス!

俺はそんなものなくても諦めなかった女の子を知っている。

俺は、才能に恵まれなくて苦しんでいる女の子を知っている。


どんな【才能センス】を持ってるかなんて、どうだっていい。


「俺は! 冒険者になるんだよ! 困ってる人たちを助ける、強い冒険者に!」


言って、俺は試合会場の方へと駆け出す。


そうだ、どうだっていんだ。俺の【才能センス】が戦闘向きじゃなかろうと。

冒険者をするにあたって、ハズレの部類に入ろうと。

俺の本領が一対一じゃないからどうした。

俺には仲間がいる。一人ぼっちじゃない。使えるもんは、全部使って。

持ってるもんで勝負すんのが冒険者だろ!


ずっと心の何処かで焦りがあった。


ヒガさんは【才能センス】に左右されない強さを持っていた。

ダーケさんは、【才能センス】を受け入れる強さを持っていた。


俺にはなにもなかったから。


仲間がいなきゃ何もできなかったから。

けど、よく考えたらそんなの当たり前だ。一人で何でもできる【才能センス】を持ってるなんて稀有な存在だ。

ベーアだって、一人で戦える力持っているやつだって仲間を探しにここへやってきていた。


自分に与えられた能力を限界まで知らず、使わずにいて、その程度で弱気になってた。

バカバカしい。ダサすぎる。


ようやく気づくことができた。


俺は走る足により力を込める。

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