第34話 仲間候補

「ヒガさん、勝ったよ」


 試合が終わった後落ち会おうと約束していた場所へ向かうと、すでにヒガさんがベンチに俯きがちに座り込んでいた。


「あら、そう……おめでとう」


 僕が近づいて声をかけると、顔を上げて笑う。

 けれど、その笑顔はいつも見慣れたものじゃないことが、すぐにわかった。


「ヒガさん、何かあった?」

「……メズくんはすぐに気がつくのね」


 はぁ、とひとつため息を吐いてからヒガさんは口を開く。


「負けちゃった。ボロ負けよ。やっぱり、【才能なし《コモン》】に冒険者は厳しいのかしら」

「な……」


 予想外だった。あの魔法に長けたヒガさんが、一回戦で敗退するなんて。相手はどれほどの【才能センス】を持っていたんだ?


「ラドル・メラニアン……あんな子がいたなんて」


 聞いたことのない名前だ。他のクラスの生徒か。


「どんな人だったの?」

「一言で言うなら……そうね、化け物」

「化け物」


 思っていたよりも物騒な例えが飛んできた。

 自信家である彼女にそう呼ばしめる理由はなんだろうか。


「どんな【才能センス】なのかはわからない。けど、あれは確実に突出した【才能センス】よ。あんな魔法の使い方、見たことない」


 思い出すだけでも恐ろしいと、苦笑いを俺に向ける。少しラドルさんに興味が湧いてきた。


「ごめん、用事を思い出した。ちょっと行ってくる」

「い、行ってくるってどこに」

「それはまた後で説明する!じゃ!」


 幸い、次の試合まで時間がある。ラドルさんについて、軽く調べるくらいはできるだろう。


 ヒガさんに手を振り、ダーケさんに関する資料を見せてもらった部屋へと走って向かう。


『パーティーの理想型はいくつもあるが、最もオーソドックスなのは、近接アタッカー、タンク、バッファー、遠距離アタッカーの四職だよ。マッパー?荷物持ち?そんなの、どうとでもなるさ』


『だから、早いところ後一人遠距離アタッカーを見つけておくといいよ』


 ユレイン先生に教えてもらった言葉がよぎる。

 俺たちのパーティーは現状、俺が近接アタッカーとタンク。

 ヒガさんがバッファーと遠距離アタッカーを兼任しているという形だ。


 そこにダーケさんを組み込むことで、俺の負担を減らす。

 あと一人。バッファーと遠距離アタッカー、どちらをヒガさんに任せるべきか悩んでいた。

 しかし、彼女はバッファーの方が向いている気がする。これは単なる直感だが……彼女はバフをかけるのが他の人よりも上手い。

 その点から、彼女は完全にバッファーとして後方支援をしてもらう。


 あとは、ラドルさんが俺たちのパーティーに入ってくれるかどうか、俺が今求めている【才能センス】かどうか。それを確かめるために、その人のデータを調べる。

 完全にズルだが、ユレイン先生から許可はもらっている。


 俺は部屋の扉を勢いよく開いた。

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