脱力した腕から剣を落としそうになり、ハッとして再び剣を握る手に力を込める。

(冷静になれ、メズ……！)

言い聞かせて、距離をとってから相手の状態を確認する。

自分の腕を熊の腕のように変化させる【才能（センス）】……“獣化”と呼ぶべきか。

距離をとってすぐに、ベーアは獣化させていなかった方の腕も獣化させた。斧を使う気は無いように見える。

熊の一撃は木を一撃で粉々にするという。あの腕にも、それくらいの力があったとしてもおかしくはない。

そのことから、剣で受け流すこともいいとは考えられない。

つまりはここは――全力回避！

そう決めて俺は間合いを詰める。

ベーアの攻撃は単調で読みやすい。回避は容易だ。

(けど全然打ち込みにいけない！)

避けるのに精一杯で、なんとか一撃加えることができない。

相手に隙を作らせる必要がある。

(何かないか、何か……)

防戦一方になる中で、必死に思考を巡らせる。

そしてようやく、一つだけ。俺も打てる手立てがあることを思い出した。

「【フラッシュ】！」

魔力を込めた手のひらから放たれる閃光。

「がああああっっ！？」

ユレイン先生に対して使ったときは有効な手立てにはならなかったが、ベーアに対しては効果抜群だったらしい。激しい雄叫びを上げながら熊の手で目を抑える。

「はぁぁっ！！」

完全に隙だらけになった体に一撃。全力で加えてやる。

「そこまで！勝者、メズ・ティテランタ！！」

腹と目を抑えるベーアを救護員がタンカーで運んでいく。ヒーラーのところへ運ばれたのだろう。

一回戦はなんとか勝つことができた。ダーケさんはどうだろうか。

いくつかある試合会場のうち、ダーケさんが試合をしているはずの会場に目を向ける。

「勝者！ダーケ・ナヌーク！！」

審判の声がここまで聞こえた。どうやら無事ダーケさんも勝てたらしい。

魔法部門であるヒガさんの試合は別のところで行われているため、見ることはできないが……きっと彼女は勝っているだろう。

次の試合に備えるため、俺は試合会場を後にした。

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