第31話 「ハーレムがしたいの?なんなの?」

「最近、ダーケさんとは上手くやれてるみたいね」


放課後。ヒガさんに魔法の訓練をしてもらっていると、不意にむすっとした様子で彼女が言った。少しご機嫌斜めのようなのが一瞬でわかった。


「まぁ、前よりは……」


俺はヒガさんが不機嫌なのに気づかないフリをして、魔法の訓練に集中する。ちなみに内容は【フィジカル・エンチャント】【ライジング】の効力をより高める訓練だ。剣技だけでは勝ち抜くことはできない。

別に勝ち抜く必要はないが、せっかくならどこまでやれるのか試してみたい。


「……私の次はダーケさんなの?」

「え――ぎゃあ!?」


柄でもないセリフをヒガさんが口にするものだから、魔力の制御を間違えて魔力が暴発してしまった。簡単に言えば腕が曲がらない方に曲がった。


「ちょ、大丈夫!? ――【ヒール】」

「大丈夫、ちょっとびっくりしただけだから……」


ヒガさんが慌てて回復魔法で治癒を施してくれる。すぐに腕の痛みは治まり、しっかりと元通りになってくれた。俺も回復魔法覚えたいな。いや、それは置いておいて。


「急にどうしたの? ヒガさんがそんなこと言うなんて」

「えっ、いや……な、なんでもないわ」


俺が質問をすると、珍しくたじろいで視線を地面に落とす。

今日はなんだか様子がおかしい。何かあったのだろうか?


「なぁ、なんかあったのか?」

「だから、何にもないって……いえ、隠しても無駄よね」


はぁ、と息を一つ吐いてからヒガさんが話し始める。


「このまま、ヒガさんとパーティーを組んで、私は省かれちゃうのかなって、少し思っただけよ」


思いもよらない、彼女らしくない弱気な発言だと思った。正直彼女は、俺のパーティーじゃなくても十分にやっていける素質がある。

実際、ベーアのパーティーには誘われているわけだし。


「そんなことしないよ。なんでそんなこと」

「だって、ダーケさんとはお付き合いを始めたのでしょう?」

「は!?」


予想の斜め上の理由を答えられて、動揺を隠せなかった。

俺とダーケさんが付き合ってる?確かに告白はされたが、そんな事実はどこにもない。


「違うの?」

「ちがうわ!」

「なら噂はデタラメだったのね、ほっ……」


安心したようにヒガさんが胸を撫で下ろす。仮に付き合っていたとしても、パーティーから追い出すわけがないのに。

というか噂?そんな噂がされているのか


「それならいいわ。さ、訓練を再開しましょう!」

「待って待って、噂って誰が」

「割と有名よ? ダーケさんとメズくんが廊下で抱き合ってたって……正直そこは詳しく聞かせて欲しいわ」


見られてたのか!!

衝撃の事実に思わず頭を抱える。

そりゃあそうだ、あそこは廊下だった。誰かに見られていてもおかしな話ではない。


「それと私と二股とかも」

「待って!?」


良くない噂が広まってしまっているようだ。

ヒガさんとダーケさんと二股!?どちらとも付き合ってすらいないのに!?


「うっ、お腹が……」

「大丈夫?【ヒール】してあげましょうか?」

「い、いやいい……というか遊んでるだろ……」


ヒガさんがニヤニヤと笑みを浮かべる。完全に遊ばれている。


「全く、いい度胸よね。この私と二股なんて」

「いやだからどっちとも付き合ってな――」

「けど、このままならパーティーの男女比が1:2になってしまうわ。ハーレムがしたいの?ねぇ?なんなの?」


俺で遊んでいると思っていたら、今度は少しその語気に怒りがこもる。視線が痛く刺さる。


「い、いや、いつの間にか……というかユレイン先生が……」

「そう、なら後で先生に話を伺うわ」

「そ、そうして……」


ふん、とヒガさんが少しばかり不機嫌そうにそっぽを向いた。

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