第30話 迷い?

「はぁっ!!」

「ふっ……!」


俺が完全に決めることができたと思った一撃を、完璧に凌がれた。

『冒険者育成学校戦闘大会』の開催の日時が決定し、みんながその日に向かって技を磨いている中、色々あったが、俺も剣の腕を磨くためダーケさんに剣を教えてもらえることになった。

『ダーケちゃんを仲間にしよう大作戦』は順調だ。


「太刀流の基礎中の基礎、心構えは“一撃で決めること”です。そのためこう言った模擬戦のようなものでは、その真価を発揮することができません。相手を殺せない以上、頭をかち割るなんてできませんから」


距離を取ったダーケさんが、流れる汗を拭いながら言う。


「今がモンスターが出現するよりも前……戦国と呼ばれた時代や、武士と呼ばれる方たちが生きていた時代なら、もっと価値があったのかもしれませんが」


太刀流はそれこそ、戦国の後、江戸と呼ばれる時代に生まれたものである。今からうんぜん年前の話になる。


「だから……殺さない程度で、けれど致命傷になる部分を狙いましょう。幸い、この町には一級の回復術師ヒーラーがいますから。一撃で殺さない限りはまぁ……問題ない、はずです」

「本当に大丈夫なのか、それ?」

「……たぶん」


ダーケさんが目を逸らして言う。怪しいところではあるが、確かに殺さない限りは死なないはずだ。うん、はず。


「肩を狙いましょう。次点で腹部。まぁ基本防がれるでしょうが……迷いがなくなる分思い切り行けるはずです」

「え、迷いとかあった?」


今のところ、自分の中に迷いがあるなんて一切思ったことがなかった。思いもよらなかった指摘に反射的に質問をする。


「ありますよ。確かに鍛えられた剣筋の中に、どこか迷いがあります。わたしはそれが“相手を殺してしまうかもしれない”って言う部分からきてると思ったんですけど……」


違いました?とダーケさんが聞いてくる。

確かに、そう言ったことを想わなかったわけではない。けれど、相手は生きている人だからどれだけ頑張っても初撃は防がれるだろうと思っていたし、実際そうだったから、そこに迷いがあるとは自分では思えない。


「うーん……ごめん、わからないや」


結局曖昧な返ししかすることができずに、俺たちは稽古を再開するのだった。

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